2002.07.11

NHLBIが臨床試験「WHI」を早期中断、ホルモン補充療法に乳癌、心血管疾患の予防効果なし

 米国国立衛生研究所(NIH)の下部機関、米国国立心臓肺血液研究所(NHLBI)は7月9日、閉経後女性を対象とした臨床試験「WHI」(Women's Health Initiative)の一部を、予定より3年早く中断したことを発表した。エストロゲン・プロゲスチン合剤を用いるホルモン補充療法(HRT)のプラセボ対照試験で、乳癌や冠動脈疾患、脳卒中の増加が認められたため。

 NHLBIは、同日付けで経緯を説明する文書を試験参加者に送付。Journal of American Medical Association(JAMA)誌7月17日号に掲載される予定の、中断時までの試験成績をまとめた論文も、同日からJAMA誌のホームページで早期公開された。

 WHI試験は、50〜79歳の閉経後女性約16万人を対象に、HRTや食事療法などで心血管疾患や乳癌などの発症を予防し得るかを調べる長期介入試験。うちHRTに関しては、対象女性の子宮の有無に応じた2種類の介入試験が行われていた。HRTでは通常、子宮を切除した女性に対してはエストロゲン単剤、子宮がある女性には子宮体癌を増加させないエストロゲン・プロゲスチン(黄体ホルモン)合剤が用いられる。

 今回中断されたのは、HRTに関する試験のうち、エストロゲンとプロゲスチンの合剤を用いた試験。約1万6000人の閉経後女性を対象としたプラセボ対照二重盲検試験で、平均8.5年間追跡して癌や心疾患、骨折の予防効果を評価する予定だった。

 しかし、3年目、4年目の中間評価時点で、合剤服用群に心筋梗塞や脳卒中の増加傾向があることが判明。今年3月末に行われた5年目の中間評価では、乳癌が試験中止基準を超えて増加したことがわかり、4月末に試験が中断された。中断時までの平均追跡期間は5.2年。対象者の平均年齢は約62歳、8割強が白人で、平均血圧は127/76mmHg。同じエストロゲン・プロゲスチン合剤を用いた介入試験「HERS」(関連トピックス参照)とは異なり、対象者の9割には冠動脈疾患の既往がなかった。

 中断時までの解析で、合剤服用群では骨折が24%、大腸癌が37%、プラセボ群より有意に少なかった。しかし、冠動脈疾患は29%、肺塞栓は2.1倍、浸潤性乳癌は26%、脳卒中は41%、プラセボ群より有意に多いことが判明した。なお、総死亡のハザード比は0.98で両群にほぼ違いはなかった。

 留意すべきなのは、疾患増加の「絶対値」は極めてわずかなものである点だ。1年間エストロゲン・プロゲスチン合剤を服用した場合の疾患増加人数は、冠動脈疾患が1万人当たり7人、脳卒中が8人、肺塞栓が8人、乳癌が8人。更年期症状の緩和のため、短期間HRTを行う場合なら、この程度のリスクは「許容範囲」と考える患者も少なくないだろう。既にHRTを受けた人にとっても、健康不安の解消にこのデータは役立つはずで、医師からの十分な説明が望まれるところだ。

 だが、心筋梗塞や脳卒中、乳癌などの予防効果を期待してHRTを長期間続けることの有用性に関しては、先に発表された「HERS」「HERS2」と併せ、今回の結果でまさに「完全否定」されたと言えよう。1996年にNIHがベータカロチンを用いた癌予防試験を中断した際には、全米に「ベータカロチン・ショック」が広がり、日本の健康食品市場にも大きな影響が生じた。米国では閉経後女性のおよそ4割がHRTを受けており、今回のWHI試験の中断で、臨床現場には大きな波紋が広がりそうだ。

 なお、NHLBIは今回の試験参加者に対し、今後も追跡調査を続行する。また、子宮切除を受けた女性に対するエストロゲン単剤のプラセボ対照二重盲検試験については、予定通り2005年まで試験を続ける予定だ。

 この件に関するNIHのニュース・リリースは、こちらまで。中断時までの解析結果に関する論文のタイトルは、「Risks and Benefits of Estrogen Plus Progestin in Healthy Postmenopausal Women :Principal Results From the Women's Health Initiative Randomized Controlled Trial」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.7.8 ホルモン補充療法、冠動脈疾患の2次予防効果はやはり否定、骨折の予防効果もなし−−HERS2研究より

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