2002.07.10

米国厚生省の下部組織、乳癌の化学予防を「推奨せず」

 米国厚生省(HHS)の下部組織、Agency for Healthcare Research and Quality(AHRQ:医療分野の研究と質向上を支援する部門)は7月1日、乳癌の化学予防に関するガイドラインを発表した。「乳癌発症リスクが高く、かつ化学予防による有害事象の発症リスクが低い」女性を除いては、タモキシフェン(わが国での商品名:ノルバデックスなど)のような選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM)を用いる1次予防をルーチンに行うべきでないとするもの。ガイドラインの全文と、根拠となった臨床研究の解析結果は、Annals of Internal Medicine誌7月2日号に掲載された。

 このガイドラインは、AHRQの諮問機関である米国予防医療専門委員会(USPSTF)が検討を進めてきた。欧米人は日本人より乳癌罹患率が数倍多く、一般市民の乳癌に対する関心も高い。検診による早期発見や治療技術の向上にもかかわらず、米国では毎年約4万人が乳癌で死亡している。そのため、既に乳癌を発症、治療を受けた人の再発予防(2次予防)に加え、乳癌の家族歴があるなど発症リスクが高い女性に対しても、積極的な予防策が求められてきた。

 タモキシフェンや塩酸ラロキシフェン(米国での商品名:Evista)などのSERMは、乳癌の再発予防や閉経後骨粗鬆症の予防・治療薬として用いられてきた内分泌療法薬。うちタモキシフェンは、「35歳以上で乳癌の5年予測発症率が1.66%以上のハイリスク女性」に対する乳癌の発症予防(1次予防)薬として米国食品医薬品局(FDA)が承認、塩酸ラロキシフェンも大規模臨床試験「MORE」(the Multiple Outcome of Raloxifene Evaluation trial)で予防効果が示されている。

 今回発表されたガイドラインは、タモキシフェンの乳癌1次予防薬としてのFDA承認根拠となった大規模臨床試験「BCPT」(the Breast Cancer Prevention Trial)や、塩酸ラロキシフェンの「MORE」などのデータを検証。SERMを用いる化学予防の、有効性と安全性(有害性)に対する総合的な判断を行った。

 その結果、乳癌の発症リスクが低いあるいは平均的な女性に対しては、有効性(乳癌の1次予防効果)よりも有害性(子宮内膜癌、脳卒中、肺塞栓、深部静脈血栓症の発症増加)が上回る恐れがあることが判明。そのため、こうした低〜中等リスク女性に対しては、乳癌の1次予防薬としてタモキシフェンまたはラロキシフェンをルーチンに処方することは勧められないとした。

 具体的には、乳癌の発症リスクが比較的低い40歳未満の女性や、発症リスクは高いが有害事象の起こるリスクも高い60歳以上の女性は、SERMによる乳癌1次予防のよい適用とはならない。ガイドラインでは、乳癌の5年予測発症率を求める手法として、米国国立癌センター(NCI)の乳癌リスク判定ツールの利用を勧めている。

 一方、乳癌の発症リスクが高く、かつ有害事象の起こるリスクが低い女性に対しては、同ガイドラインは「臨床医は化学予防について話し合いを持つべき」と提言。その際、患者には有効性と有害性の双方について情報提供を行うべきとした。

 このガイドラインのタイトルは、「Chemoprevention of Breast Cancer: Recommendations and Rationale」。現在、こちらで全文を閲読できる。根拠となったエビデンス「Chemoprevention of Breast Cancer: A Summary of the Evidence for the U.S. Preventive Services Task Force」は、こちらまで(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。

 なお、AHRQホームページ上の、「Chemoprevention of Breast Cancer」からも、ガイドラインや関連情報を入手できる。

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