2002.07.08

HPS研究が待望の論文化、米の高脂血症治療ガイドラインにも影響か

 これまで脂質低下治療の対象とは一般的に考えられていなかった患者群でも、積極的脂質低下が有用である−−。昨年の米国心臓協会(AHA)学術集会で初めて報告され(関連トピックス参照)、大きな注目を集めてきた「HPS」研究(Heart Protecition Study)の最終報告が、ついにLancet誌7月6日号に掲載された。

 HPS研究は、冠動脈疾患などの閉塞性動脈疾患、あるいは糖尿病ないし高血圧に罹患している、血管性疾患のリスクが高い約2万人を対象としたプラセボ対照無作為化試験。1.脂質低下薬、2.抗酸化ビタミン−−の2種類の介入について、その後の予後などに対する影響を調べた。

 脂質低下療法の効果に関しては、スタチン系薬のシンバスタチン(商品名:リポバス、1日投与量:40mg)またはプラセボに無作為に割り付け、平均5年間二重盲検法で追跡した。対象患者数は、シンバスタチン群が1万269人、プラセボ群が1万267人。組み入れ条件となる血清脂質値は、総コレステロール(TC)値が135mg/dlを超えることで、既に脂質低下療法の適応となる人は除外した。年齢は40〜80歳で、およそ4分の1が女性だった。

 その結果、シンバスタチン群ではプラセボ群に比べ、総死亡が相対的に17%(絶対リスク:12.9%対14.7%、p=0.0003)、冠動脈疾患死が18%(同:5.7%対6,9%、p=0.0005)、それぞれ有意に減少することが判明。非致死性心筋梗塞(同:3.5%対5.6%)と非致死性脳卒中(同:3.6%対4.9%)もシンバスタチン群で有意に減少していた。

 また、本試験では「主要血管イベント」を、冠動脈死、非致死性心筋梗塞、脳卒中または血行再建術(冠動脈に限らず)と定義しているが、シンバスタチン群における主要血管イベントの減少は、併用薬や合併症、治療開始前血清脂質値などに影響されなかった。シンバスタチン群における主要血管イベント減少は、試験開始2年後から有意となり、開始5年を経過しても有意なままだった。

 安全性に関しては、本研究でも「非血管死」は両群で有意差がなく、シンバスタチン群で減少傾向を示した。脳出血発症、発癌も両群間に差はなかった。筋障害と肝障害発現も、両群間に有意差はなかった。

 一方の、抗酸化ビタミンによる介入では、総死亡や冠動脈疾患死、主要血管イベントのいずれも、プラセボを服用した群と有意差は認められなかった。安全性にも両群で有意差はなかった。

 興味深いのは、血清脂質が比較的低い、つまり試験開始時のTC値が193.5mg/dl(5.0mmol/l)未満、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール(LDL-C)値が116mg/dl(3.0mmol/l)未満の群で解析しても、シンバスタチン群における主要血管イベントの有意な減少がみられる点だ。試験開始時のLDL-C値が116mg/dl未満の群で、LCL-C値を77mg/dl(2.0mmol/l)未満にまで低下させても、血管イベントは減少したという。

 これらより研究グループは、少なくとも西欧人では、現在の脂質低下治療ガイドラインが対象とする患者よりもより広範囲の患者が、脂質低下治療の恩恵を受けられると結論。現在の治療目標値では、脂質低下治療の有用性が十分に発揮されないと主張している。

 なお、現在の米国高脂血症治療ガイドラインである、ATP3完全版(Full Report)の関係者が、今年3月に開催された米国心臓学会(ACC)で「HPS」研究に対する見解を明らかにしている。ATP3の査読者(reviewer)である米国Cornell大学附属Weill医科大学のAntonio M. Gotto氏によると、ATP3からHPS研究に関するコメントが、今年中に発表されるとのことだ。

 HPS研究のうち、脂質低下療法に関する論文のタイトルは、「MRC/BHF Heart Protection Study of cholesterol lowering with simvastatin in 20 536 high-risk individuals: a randomised placebo-controlled trial」。アブストラクトは、こちらまで。

 一方の抗酸化ビタミンに関する論文のタイトルは、「MRC/BHF Heart Protection Study of antioxidant vitamin supplementation in 20 536 high-risk individuals: a randomised placebo-controlled trial」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(宇津貴史、医学レポーター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2001.11.27 高リスク患者へのスタチン投与、コレステロール値によらず脳卒中や心臓発作のリスクが3分の1減少−−HPSの結果より

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