2002.06.29

【ISH速報】 チェコの心血管死亡率の低下、高血圧患者の減少が一因か

 いわゆる旧東欧諸国では心血管疾患の増加が大きな社会問題になっているが、チェコでは逆に、この15年で脳卒中死亡率と冠動脈疾患死亡率(いずれも年齢調整後)が共に約4割低下している。「その一因として、高血圧罹患率の低下がある」と分析するのは、チェコ高血圧学会会長でチェコ臨床・実験医学研究所のR. Cifkova氏。Cifkova氏らは6月27日のポスターセッションで、チェコで行われた血圧疫学調査の結果を報告した。

 チェコにおける死因の第1位は、米国や他の多くの欧州諸国と同じく心血管疾患(脳卒中含む)で、男性の49.6%、女性の54.9%を占める(2000年)。第2位の悪性新生物(男性28.1%、女性25.9%)を大きく引き離す比率で、心血管疾患の予防や治療成績の向上は重要な課題となっている。

 しかし、15年前の1985年と比較した場合、年齢調整総死亡率は男性で26.5%、女性で26.9%も低下。その大きな牽引役となっているのが心血管死亡率の低下で、男性では31.6%、女性では30.8%下がった。なかでも冠動脈疾患(低下率:男性41.3%、女性38.6%)や脳卒中(低下率:男性37.6%、女性39.6%)では死亡率の低下が著しい。

 こうした死亡率の低下は、治療成績の向上に加え、冠動脈疾患や脳卒中の危険因子である高血圧の罹患率が下がったためではないか−−。こう考えたCifkova氏らは、1985年から2001年の間に5回行われた疫学調査の結果を比較した。

 最初の3回(1985年、1988年、1992年)は、世界保健機関(WHO)が世界各国で行っている大規模疫学研究「MONICA」に、チェコから参加したプラハなど6地域(旧地域)のデータを使用。1997〜1998年と2000〜2001年には、旧地域に新たに郊外の3地域(新地域)を加えた計9地域で調査を行った。対象者はいずれも調査当時25〜64歳の地域住民(平均45歳)で、旧地域と新地域とで高血圧の罹患率に差はないという。

 調査方法は、調査時に3回連続して血圧を測定し、3回の測定値の平均が140/90mmHgを超えた場合を「高血圧」とするもの。降圧薬を服用している人は、血圧値に関わらず高血圧とした。調査協力者数は1985年の初回が2570人、第2回が2768人、第3回が2343人、第4回が3209人、第5回が3447人。なお、対象地域住民の1%を無作為に抽出したが、調査への協力比率は初回調査の約8割から第5回調査では6割強にまで低下している。

 その結果、対象者の血圧値の平均は、男性で135.8/85.9mmHgから131.9/83.7mmHg、女性で131.8/82.8mmHgから125.9/79.3mmHgへと、5回の調査でほぼ直線的に低下。高血圧の罹患率も、男性で47.1%から39.1%、女性で27.9%から25.9%と、ほぼ直線的に減少した。

民主化が医療アクセスを改善、受診率の向上に

 一方、降圧治療を受けている人の調査対象者全体に占める割合は、男性で10.9%から18.5%、女性で16.6%から19.5%へと増加した。高血圧の定義が160/90mmHgから140/90mmHgへと変わり、調査時の基準で“治療対象”とされる比率が変わったとの見方もできるが、「罹患率が減っただけでなく、治療受診率が増えているわけで、喜ばしいデータ」とCifkova氏は解釈する。

 その背景にあるのが、1989年11月に起こった「ビロード革命」(市民フォーラムが共産党政権を倒した無血革命)だ。民主化そのものが高血圧の罹患率を下げたかどうかは、「政府による抑圧というストレスはなくなったが、民主主義社会下ならではの新しいストレスもあり、定かではない」(Cifkova氏)と指摘。その一方で、医療機関の数や診療体制、使える薬の種類などは格段に改善されたという。また、共和国となった後も、社会主義国家時代の医療費無料体制は保持されており、患者は一部の薬剤を除いては一切の自己負担なしに治療を受けることができる。

 ただし、「高血圧患者のなかには病識がない人も多く、治療を受けていても不十分なケースが見られる点は今後の課題」とCifkova氏は指摘する。2000〜2001年調査では調査協力者の37.3%が高血圧だったが、そのうち自分が高血圧であるとの病識を持っていたのは66.6%。高血圧患者のうち治療を受けていたのは50.4%で、治療目標域に達していたのは高血圧患者の19.3%に過ぎない。「高血圧とわかったら医療機関を受診する、そして降圧目標域にまで血圧を下げるよう、一般市民と医師の双方に対する一層の啓蒙が必要」とCifkova氏は述べた。

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