2002.06.17

ムピロシンの鼻腔内投与は術創感染を予防するか?、注目の大規模試験結果が発表

 外科手術を受ける患者の鼻腔内に、抗菌薬のムピロシン軟膏(わが国での商品名:バクトロバン鼻腔用軟膏)を予防的に塗布すると、はたして術創の感染症を予防できるのか−−。約4000人の外科患者を対象としたプラセボ対照無作為化試験、「MARS」(the Mupirocin and the Risk of Staphylococcus aureus)試験の結果が、New England Journal of Medicine(NEJM)誌6月13日号に掲載された。

 黄色ブドウ球菌が鼻腔内に感染している人(保菌者)が手術を受けると、術創に感染症が生じやすいことが知られている。特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)では、感染の治療が比較的難しく、大きな問題となっていた。

 そこで、米国Iowa大学医学・公衆衛生学校のTrish M. Perl氏らは、「手術を受ける患者全員に、予防的にムピロシン軟膏を鼻腔内塗布する」との予防戦略を検証する臨床試験を実施。患者を無作為に2群に分け、一方に実薬、他方にプラセボを塗布して、術後の術創感染症発生率や鼻腔内の保菌状況を比較した。最終的な解析対象者は3864人。

 その結果、1次評価項目である術創の黄色ブドウ球菌感染症発生率は、実薬群の2.3%に対しプラセボ群では2.4%。両群に有意差はなく、手術患者全員に予防塗布を行うという戦略では、術創感染の予防効果は示せなかった。

 次に研究グループは、術前に鼻腔内に黄色ブドウ球菌を保菌していた患者(全体の23.1%)に絞って解析を行った。保菌者の比率は実薬群とプラセボ群とでほぼ同一。術創の黄色ブドウ球菌感染率は、実薬群で3.7%、プラセボ群で5.9%となり、相対的に37%減少したが有意な差とはならなかった(p=0.15)。

 有意な差が現れたのは、黄色ブドウ球菌の、鼻腔内保菌率。患者全体では実薬群2.4%、プラセボ群2.9%と有意差はないが、術前の保菌者に絞ると、実薬群で4.0%、プラセボ群で7.7%となり、鼻腔内の黄色ブドウ球菌感染率がほぼ半減することがわかった(p=0.02)。

 術創の黄色ブドウ球菌感染率に有意差が出なかった理由として、研究グループは「術創感染率が予想よりはるかに低く、保菌者の術創感染率も事前に予想していたより低かった」ため、結果的に“検出力不足”になったと考察する。また、術創感染の中には、患者自身の鼻腔からのほか、医療従事者や他の患者からの感染例が混じっており、「そうした感染様式はムピロシンの鼻腔内塗布では防げない恐れがある」とも指摘する。

 「鼻腔内保菌者の術後鼻腔内保菌率を下げる」ことの臨床的意義に関する考察は加えられていないが、研究グループは「ムピロシン塗布は安全で、黄色ブドウ球菌の鼻腔内保菌者に対する保護的な効果があり、保菌者が手術を受ける場合にそのような感染症を防ぐためのリーズナブルな薬剤である」と結論付けている。この研究結果が臨床医にどのような形で受け止められるか、今後の通信(correspondence)欄での議論も含めて注目したい。

 この論文のタイトルは、「Intranasal Mupirocin to Prevent Postoperative Staphylococcus aureus Infections」。アブストラクトは、こちらまで。なお、この件に関しては、ムピロシンの発売元である英国GlaxoSmithKline社がプレス・リリースを発表している。

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