2002.06.16

PCI後の再狭窄問題に決着か、シロリムス被覆ステントの無作為化試験成績の詳細が公表

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の“アキレス腱”とされる、PCI後の再狭窄問題に決着がつく兆しが出てきた。シロリムス(ラパマイシン)被覆ステントを用いた無作為化二重盲検試験「RAVEL」(Randomized Study with the Sirolimus-Coated Bx Velocity Balloon-Expandable Stent in the Treatment of Patients with de Novo Native Coronary Artery Lesions)の成績の詳細が、New England Journal of Medicine(NEJM)誌6月6日号に発表された。

 シロリムス被覆ステントは、米国Johnson & Johnson社の子会社であるCordis社が開発した新しいタイプのステント。通常のステントに比べて、6カ月後の新生内膜増殖や再狭窄を有意に減少させたほか、1年後の心血管イベントの発生や再インターベンションの必要性を著しく抑制したという。この試験成績は昨秋の欧州心臓病学会(ESC 2001)で初めて発表され、大きな注目を集めており、今回待望の原著論文が掲載された。
 
イースター島の土壌放線菌が産生するマクロライド系抗生物質シロリムス

 シロリムスの起源は、謎の石像モアイで知られる南太平洋の島、イースター島に遡る。1975年、この島で採取された土壌サンプル中の放線菌Streptomyces hygroscopicusが、自然発酵によって新しいマクロライド系抗生物質を産生することが明らかになった。この抗生物質は強力な抗真菌作用や免疫抑制作用、有糸分裂阻害作用を示し、シロリムスと命名された。シロリムスはラパマイシン(Rapamycin)とも呼ばれるが、これはこの島やそこに暮らす住民、その言語を意味する現地語「ラパヌイ」(Rapa Nui)に由来する。

 シロリムスは、細胞周期の阻止を介して、サイトカイン刺激によるT細胞増殖を抑制し、免疫抑制作用を示す。また、血管平滑筋細胞など種々の細胞の増殖を抑制する作用も有する。こうした作用を踏まえて、まず臓器移植における拒絶反応抑制薬として臨床応用されたが、その一方で、冠動脈ステント留置後の再狭窄の防止を狙った応用も試みられた。これがシロリムス被覆ステントだ。

 シロリムス被覆ステントは、シロリムスを混入したポリマーをステンレス製のバルーン拡張ステントに被覆したもの。被覆されたシロリムスはステント留置後、血中に徐々に放出され、留置後30日以内にその80%が放出されるようデザインされている。動物実験や小規模臨床試験では、シロリムス被覆ステントの使用によって、PCI後の再狭窄の原因として重要視される新生内膜増殖が抑制された。

1枝病変患者238人をシロリムス被覆ステント群と通常ステント群に分けて検討

 RAVEL試験は、欧州および中南米の8カ国(オランダ、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリア、ハンガリー、ブラジル、メキシコ)の19施設が参加して実施された。対象は、冠動脈の1枝病変を有する安定狭心症、不安定狭心症または無症候性虚血の患者238人(60.7±10.4歳平均値±標準偏差(SD);以下同]、男性76%)。これらの患者をシロリムス被覆ステント群(120人)と通常ステント群(118人)に無作為に割り付けた。両群とも、補助療法としてヘパリン静注、アスピリン投与と抗血小板薬投与(クロピドグレルまたはチクロピジン)を行った。

 主要評価項目(エンドポイント)は6カ月後における血管内径の減少(ステント留置直後の最小内径と6カ月後の最小内径の差)とし、二次評価項目は内径の狭窄率および再狭窄(狭窄率50%以上)を来した患者の頻度とした。さらに、1カ月後、6カ月後、1年後における死亡、心筋梗塞、および経皮的または外科的再疎通術の施行からなる複合臨床エンドポイントも解析した。

シロリムス被覆ステント群では再狭窄が1例もみられず

 その結果、6カ月後における血管内径の減少は、シロリムス被覆ステント群が−0.01±0.33mm、通常ステント群が0.80±0.53mmで、シロリムス被覆ステント群の方が有意に少なかった(p<0.001)。再狭窄をきたした患者の頻度も、通常ステント群が26.6%であったのに対して、シロリムス被覆ステント群では1例もなかった(p<0.001)。ステント血栓は両群とも認められなかった。
 
 血管内超音波による評価では、新生内膜増殖がシロリムス被覆ステント群で2±5mm3、通常ステント群では37±28mm3で、シロリムス被覆ステント群の方が有意に少なかった(p<0.001)。容量閉塞(ステントの容量に対する過形成の容量の比率)もシロリムス被覆ステント群が1±3%、通常ステント群が29±20%で、シロリムス被覆ステント群の方が有意に少なかった(p<0.001)。

 1年後までの主な心血管イベントの発生率も、シロリムス被覆ステント群で有意に少なく、5.8%対28.8%となった(p<0.001)。両群の違いは、梗塞責任血管の再疎通術を必要する患者が通常ステント群により多かったことにも現れていた。シロリムス被覆ステントによる副作用はなかった。

 以上の結果を踏まえて、RAVEL試験グループは「シロリムス被覆ステントは、通常ステントよりも、新生内膜増殖、再狭窄、および関係する臨床イベントの防止効果が期待できる」と結論づけた。

 この試験結果をめぐっては、NEJM誌の同じ号の“Perspective”欄でも検討が加えられている。同欄では、今後の課題として、1.より多くの患者で有効性を確認すること、2.より複雑な病変に対する有効性を明らかにすること、3.より長期間の有効性と安全性を確認すること−−などを指摘している。

 この論文のタイトルは、「A Randomized Comparison of a Sirolimus-Eluting Stent with a Standard Stent for Coronary Revascularization」。アブストラクトは、こちらまで。(田中博、メディカルライター)

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