2002.06.11

臨床研究論文への「批判」、十分な回答はなされず

 査読制度(peer-review)を持つ欧米の学術誌には、掲載論文に対する読者からの質問や批判、コメントなどを取りまとめ、論文の著者から回答を求める「通信」(Correspondence)欄が設けられていることが多い。しかし、そこに寄せられた批判的な意見に対しては必ずしも十分な回答がなされず、診療ガイドラインにもほとんど反映されないようだ。「HOT」「CAPPP」と「STOP-2」という三つの降圧薬試験に関する分析結果で、Journal of American Medical Association(JAMA)誌6月5日号に掲載された。

 この分析を行ったのは、代表的な学術誌の一つ、Lancet誌の編集者であるRichard Horton氏。Horton氏は、1998年から1999年にLancet誌に掲載され、その後の高血圧診療ガイドラインにも大きな影響を与えた三つの臨床研究を選び、通信欄に寄せられた意見や回答と診療ガイドラインに与えた影響を分析した。

 Horton氏が取り上げた臨床試験論文は、「HOT」(Hypertension Optimal Treatment Trial)、「CAPPP」(Captopril Prevention Project)と「STOP-2」(Swedish Trial in Old Patients With Hypertension 2)の3報。1998年8月から2000年10月までに発表された36の診療ガイドラインのうち、9ガイドラインが「HOT」を、6ガイドラインが「CAPPP」を参考文献として挙げており、「STOP-2」を参考文献としたガイドラインはなかった。

 「HOT」は約1万9000人の高血圧患者を対象に行われた無作為化試験で、目的は拡張期血圧の適切な降圧目標値を決めることだった。通信欄には批判が14件、コメントが5件、質問が3件寄せられた。著者らが回答したのは批判8件とコメント4件、質問3件。この研究を参考文献に挙げた9ガイドラインのうち、研究に対する批判的な吟味を行ったのは一つだけだった。

 Horton氏によると、血圧測定の正確さに対する疑念や当初の主要評価項目(エンドポイント)が用いられていないこと、高リスク患者へ研究結果を適用できるかなどの重要な批判的意見に対しては、回答されなかったという。

 一方の「CAPPP」は1万人以上の高血圧患者を対象に、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の心血管死亡などに対する予防効果をみた無作為化試験。通信欄には批判14件、コメント9件、質問3件が寄せられた。著者らが回答したのは批判5件とコメント2件、質問1件のみ。ここでもいくつかの重要な批判的意見に対する回答はなされず、採用6ガイドラインのうち批判的吟味が行われたのは一つだけだったという。

 最後の「STOP-2」は、70〜84歳の高齢高血圧患者約6600人を対象に、心血管死亡などの予防効果を指標に新旧の降圧薬を比較した試験。通信欄には批判12件、コメント9件、質問3件が寄せられ、著者らは批判4件、コメント1件、質問1件に回答した。Horton氏によると、臨床的・手法的な面に対する指摘の多くは回答されないままだったという。

 Horton氏はこの結果について、「医療分野の研究では、批判的吟味に対する抵抗があるのでは」と考察。編集者にできることは、読者から寄せられた批判に対し著者に一層の説明責任を求めることに加え、インターネットなども利用して「より完全でより長い論文」を公開するよう著者を促すことだとまとめている。

 ちなみに、ここで取り上げられた3報の論文の筆頭著者は、全て同一人物。Lancet誌の編集者であるHorton氏が、なぜLancet誌ではなくJAMA誌に寄稿したのかも含め、様々な憶測を呼びそうだ。なお、Lancet誌の通信欄には、「HOT」に対する意見や回答が総計6回(1冊に複数の意見が掲載された場合も1回と勘定)、「CAPPP」は5回、「STOP-2」は2回掲載されている。

 この論文のタイトルは、「Postpublication Criticism and the Shaping of Clinical Knowledge」。アブストラクトは、こちらまで。

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