2002.05.28

「ストレスは冠動脈疾患の危険因子」に疑義、スコットランドの職域コホート研究が示唆

 精神的ストレスが多いと、冠動脈疾患を起こしやすいとは必ずしも言えない−−。今や世界的な“常識”となっている、「精神的ストレスが冠動脈疾患の危険因子になる」との見方に異を唱える研究結果が、British Medical Journal誌5月25日号に掲載された。英国Scotlandで、5600人の男性を対象に行われた職域コホート研究による。

 自覚症状で評価した狭心症は、調査時点での罹患率、5年後の発症率のいずれも、高ストレス群の方が有意に高かった。しかし、虚血性疾患の有無を心電図で評価すると、罹患率・発症率のいずれも、むしろ高ストレス群で低い傾向があった。さらに、21年後の心疾患死亡率など客観的な指標では、ストレスと発生率に有意な相関はみられなかったという。研究グループは「精神的ストレスを強く自覚している人では、(狭心症様症状など)様々な症状を訴えるケースが多いため」との分析を提示しており、この分野の研究における「客観的な指標」の必要性を強く示唆するものと言えそうだ。

 欧米だけでなく、わが国の心疾患予防ガイドラインでも、虚血性心疾患の危険因子として「精神的ストレス」が挙げられている(関連トピックス参照)。これは、ストレスが多い人で、冠動脈疾患などの虚血性心疾患が多いとの複数の観察研究があるためだ。

 しかしこれらの研究では、ストレスの強さだけでなく、虚血性心疾患の有無についても、自覚的な症状だけで評価されているものが多い。そこで、英国Birmingham大学総合診療・プライマリ・ケア部門のJohn Macleod氏らは、Scotlandの27の職域で行われたコホート研究を分析。精神的ストレスの強さと、主観的・客観的な心疾患の罹患・発症頻度とに、どのような相関があるかを調べた。

 調査時点でのストレスの強さで「高ストレス」「中等ストレス」「低ストレス」の3群に分け、低ストレス群に対する高ストレス群の疾患発症頻度などを比較したところ、興味深い事実が浮かび上がった。自覚的な症状では、ストレスの強さと冠動脈疾患とに正の相関が示唆されたが、心疾患死亡率など客観的な指標では、職種による補正後はそうした相関が認められなかったのだ。

 また、高ストレス群では心疾患による入院率は確かに高かったが(オッズ比1.20)、他の疾患を含めての総入院率もやはり高い(オッズ比1.13)傾向があることが判明。なかでも精神疾患による入院率は、低ストレス群の2.34倍(95%信頼区間:1.41〜3.91)になったという。

 Macleod氏らはこの結果の解釈に関し、次の2点を挙げた。一つは、精神的ストレスにより様々な症状が“自覚”され、それが狭心症罹患・発症率の高さや、心疾患などによる入院率の高さに結びついたというもの。もう一つは、精神的ストレスを強く感じている男性の多くは社会的地位が高く、そうした人々の生活環境が、心疾患死亡率や総死亡率を(ストレスによる悪影響以上に)引き下げているというものだ。

 今回得られたデータは、ストレスや疾患の評価指標の客観性確保や、精神的ストレスが「一種の美徳」とされる社会構造の影響をどう考慮するかなど、この種の研究における「バイアス排除」の難しさの多くを露呈するものでもある。虚血性心疾患の発症における、精神的ストレスの役割の評価は、今後も一筋縄ではいかないようだ。

 この論文のタイトルは、「Psychological stress and cardiovascular disease: empirical demonstration of bias in a prospective observational study of Scottish men」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.4.26 ストレスは虚血性心疾患の危険因子の一つ−−教育講演より

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