2002.05.28

日系米国人の高齢者、ADA基準では糖尿病患者の3分の2を見落としか

 米国に住む日系の高齢者を対象とした糖尿病調査で、米国糖尿病学会(ADA)の診断基準と、世界保健機関(WHO)の診断基準とでは、糖尿病と診断される人の割合が大幅に異なることが明らかになった。WHOの診断基準で「糖尿病」となる人のうち、実に3人に二人が、ADAの診断基準では「正常」または「糖尿病予備軍」となるという。ADAの診断基準には、75gブドウ糖負荷試験(OGTT)の2時間値が含まれておらず、研究グループは「高齢者におけるOGTT2時間値の位置付けが明らかになるまでは、少なくとも疫学調査の項目からは2時間値を外すべきではない」と提言している。研究結果は、Diabetes Care誌6月号に掲載された。

 この研究は、1965年にスタートした前向きコホート研究「Honolulu Heart Program」の一環として行われたもの。Hawaii州オアフ島に住む、45〜68歳の日系米国人男性約8000人を登録し、心血管疾患の発症リスクについて検討したもので、食生活が欧米化した“日本人の将来像”という意味でも注目されている研究だ。

 今回の調査は、1991〜1993年に存命中だった3741人(年齢:71〜93歳)を対象に行われた。米国Hawaii大学Manoa校臨床疫学部老年医学部門のBeatriz L. Rodriguez氏らは、対象者の空腹時血糖とOGTTの2時間値を測定。ADA及びWHOの診断基準に従って「正常」「糖尿病予備軍」(空腹時血糖異常=IFGまたは耐糖能異常=IGT)と「糖尿病」とに分類し、総死亡や心血管疾患死との関連を調べた。解析からは、既に糖尿病と診断されている人などを除いたため、最終的な対象者は2034人となった。

 分類に用いた診断基準は、ADAの1997年版基準が空腹時血糖のみ、WHOの1998年版基準が空腹時血糖とOGTT2時間値の両者を用いるもの。ADA基準では、空腹時血糖が6.1mmol/l(110mg/dl)未満を「正常」、7.0mmol/l(126mg/dl)以上を「糖尿病」とし、その中間を「糖尿病予備軍」(IFG)とする。

 一方のWHO基準では、空腹時血糖が6.1mmol/l(110mg/dl)未満かつOGTT2時間値が7.8mmol/l(140mg/dl)未満が「正常」、空腹時血糖が7.0mmol/l(126mg/dl)以上またはOGTTの2時間値が11.1mmol/l(200mg/dl)以上が「糖尿病」だ。その中間の「糖尿病予備軍」は、IFGが空腹時血糖6.1〜6.9mmol/l(110〜125mg/dl)かつ2時間値7.8mmol/l(140mg/dl)未満、IGTが空腹時血糖7.0mmol/l(126mg/dl)未満かつ2時間値11.1mmol/l(200mg/dl)以上となっている。

 要するにADAの方が“緩い基準”で、これらの基準で分類すると、ADA基準で「糖尿病」となる人はWHO基準でも全員が「糖尿病」。逆にWHO基準で「正常」となる人は全員がADA基準でも「正常」となる。ところが、WHO基準で「糖尿病」となった516人中、ADA基準でも「糖尿病」と分類されたのは175人(34%)のみ。残りは、「糖尿病予備軍」(159人)または「正常」(182人)に分類されていた。

連続量としての解析でOGTTに高い死亡リスク予測能

 研究グループは次に、解析対象者を総死亡について最長7年、心血管疾患死について最長6年追跡した。すると、2034人中358人が死亡し、うち103人は心血管疾患死だったが、総死亡や心血管死のリスクを両基準で評価したところ、どちらの診断基準を用いても死亡予測精度は変わらないことがわかった。

 そこでRodriguez氏らは、空腹時血糖値とOGTT2時間値を「糖尿病」「正常」などの“分類値”(パラメトリック値)に当てはめる代わりに、そのまま連続量(ノンパラメトリック値)として扱い、死亡リスクとの相関を調べた。その結果、総死亡、心血管疾患死のいずれも、OGTTの2時間値が「空腹時血糖値とは独立の、良いリスク予測指標」であることが判明した。一方の空腹時血糖値は、2時間値を補完する値に過ぎなかったという。

 OGTT2時間値に、連続量として解析した場合のみに有用性が認められたことを受け、研究グループは「少なくとも高齢者では、現在の(診断・分類基準となる)カットオフ値を、ADA基準、WHO基準ともに見直す必要がある」と強調。2時間値はリスク予測において有用であり、「疫学調査では検査を続けるべき」と結論付けている。

 糖尿病の診断基準にOGTT2時間値を含めるべきかとの議論では、総死亡や心血管疾患死のリスクを、2時間値がどれだけ反映するかが焦点となっている。ただし、これまでの報告は全て、空腹時血糖値とOGTT2時間値を分類値として扱っており、「WHO基準とADA基準のどちらが優れるか」との観点からの議論に終始していた。今回の研究は、これらの値を連続量として扱った場合に、従来は見えてこなかった新しい知見がもたらされることを示唆するものだ。

 また、研究グループによると、「日系米国人高齢者」というコホートは、これまでに報告された他のどのコホートよりも、ADA基準とWHO基準との解離が大きかった。糖尿病患者の比率が極めて高かった点も特筆すべきで、今回の検討では、ADA基準で8.7%、WHO基準で25.4%が「未診断の糖尿病」であり、このほかに「既診断の糖尿病」患者がコホート全体の18%を占めていたという。糖代謝における日本人、あるいはアジア人の特殊性を示唆するデータで、日本から世界への情報発信が待たれるところだ。

 この論文のタイトルは、「The American Diabetes Association and World Health Organization Classifications for Diabetes :Their impact on diabetes prevalence and total and cardiovascular disease mortality in elderly Japanese-American men」。アブストラクトは、こちらまで。

■ 参考トピックス ■
◆ 2002.4.1 米国で糖尿病の検査ガイドラインが発表、OGTTを「推奨せず」

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