2002.04.12

【日本感染症学会速報】 院内感染発生は病院経営にも大打撃、セラチア菌院内感染の“収支決算”発表

 院内感染の発生で、和解金や院内感染対策費などの出費に加え、入院3割、外来15%の減少で医業収支は大幅に悪化した−−。4月11日のワークショップ1「病院感染対策の経済効率」では、指定発言として、2000年6月にセラチア菌の院内感染を経験した、同仁会耳原総合病院(大阪府堺市)副院長で同院の感染対策委員長の大田豊隆氏が登壇。院内感染が一度起きると、治療費や和解金などの直接的な費用増だけでなく、医療機関としての信頼の失墜なども含め、経営的に大きな打撃を受けることを紹介し、医院経営という観点からも院内感染対策が重要であることを強調した。

 同院は病床数380床の臨床研修指定病院。地域住民の出資で設立された診療所が母体となった総合病院で、「無差別・平等、患者の立場に立つ、高水準かつ安全な医療の追求」をモットーに病院経営を行ってきた。

 そんな同院で、国内2例目の集団発生として、セラチア菌による院内感染が発生したのは2000年6月末のこと。同一病棟内で3人の入院患者が、相次いで敗血症を起こして死亡したのだ。感染経路は末梢静脈点滴ラインで、セラチアで汚染されたアルコール綿や医療従事者の手を介し、三方活栓や輸液ルートが汚染された可能性が高いとされた。

 院内感染による医療費は健康保険の対象とならないため、セラチア菌に感染した患者の治療費(950万円)や細菌検査費用(1880万円)は病院が負担することとなった。患者家族への和解金(4500万円)も経営を圧迫した。

 さらに、地域住民からの信頼の失墜も大きかった。1カ月当たり3万2000人前後で推移していた外来患者数が、2万7000人前後にまで落ち込んだのだ。減少した外来患者数は、12月まで戻らなかった。新規の入院患者数も、出産などのキャンセルに加え、集団感染が生じた病棟を一時閉鎖した影響もあり、前年より3割近く落ち込んだ。

 耳原総合病院では、セラチア菌院内感染が起こる前から、院内に感染予防委員会を設置し、院内感染の予防に取り組んでいた。同委員会は、今回の院内感染を契機に、院内の感染対策を徹底的に見直し。8月には医療行為別の感染防止マニュアルを作成し、末梢静脈ラインや中心静脈カテーテル、ネブライザーなどを使用する際の手洗いの徹底など数々の対策を開始した。

 この感染対策には、初期投資として1330万円、維持費用として年間7360万円がかかった。また、抗菌薬の適正使用を進めた結果、特にカルバペネム系薬(チエナム)やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に適応を持つ塩酸バンコマイシンの使用が減少。抗菌薬の使用量は前年の3分の2となり、医療費としては2160万円の“収入減”となった。これらを合わせ、2000年度は3億7300万円の赤字になったという。

院内感染予防には患者一人1日当たり700円が必要に

 特筆すべきなのは、同院は以前から、院内感染予防に積極的に取り組んでいた病院だという点だ。院内感染対策費として、以前から年間2580万円を計上しており、これは入院患者一人1日当たり246円に相当する。今回の対策見直しで、維持費用は年間7300万円、患者一人1日当たりで696円へと跳ね上がった。

 一方、診療報酬で院内感染対策費として認められていたのは、術後患者を除けば院内感染防止実施加算の50円(入院患者一人1日当たり)だけ。それも今年4月の診療報酬改定で廃止され、代わりに「院内感染防止対策未実施減算」(入院患者一人1日当たり50円減額)が導入された。

 耳原総合病院の事例が示すのは、一度院内感染が起これば、経営的に大きな打撃となるということ。そして、院内感染を防ぐには、それなりのコストがかかるということだ。科学的根拠のない“無意味”な取り組みを減らし、絞り込んだ費用投入を行うべきなのはもちろんだが、果たして今の診療報酬体系で十分な院内感染対策は可能なのか−−。この教訓的な事例が、国民の求める医療システムの実現へとつながることを期待したい。


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