2002.04.12

【日本感染症学会速報】 針刺し事故の国際比較、「IV、リキャップ、病室外」が日本の特徴−−特別講演より

 医療従事者が安心して働く上で欠かせないのが、「針刺し事故」に代表される仕事上の感染リスクの低減だ。4月11日の特別講演「Protecting Health Care Workers from Bloodborne Pathogens: Lessons Learned by Comparing Experiences」では、「EPINet」として知られる針刺し事故事例の国際登録システム(Exposure Prevention Information Network)を開発した、米国Virginia大学のJanine Jagger氏が講演。わが国に特徴的な事故事例の分析や、米国で昨年施行された「針刺し予防・安全法」の波及効果の紹介などを通し、事故予防の重要性を訴えた。

 Jagger氏が、針刺し事故事例を集積・分析し、事故の起こりやすい場所やタイミング、医療器具などを特定して事故予防につなげる「EPINet」をスタートさせたのは1991年。同氏の活動は多くの医療従事者の共感を得て、現在までに日本を含む13カ国が参加する一大プロジェクトへと発展した。そうした中、浮かび上がってきたのが、針刺しの起こるパターンに国際間差異があることだ。

 例えば、全事故事例に占める持続静注(IV)実施時の事故比率は、米国では6.9%であるのに対し、日本では16.5%。使用後の針先に蓋をする「リキャップ」時の事故が全体に占める比率も、米国の3.4%に対し日本では25.6%と極端に多い。事故が起こった場所も、「病室のすぐ外」という事例が、日本では16.5%と米国の2%よりはるかに多くなっている(データはいずれも1996〜1998年のもの)。

 この理由としてJagger氏は、前2者については主に「安全装置付きの鋭利器材」(安全器材)の普及率の差だと推測。病室外での事故の多さに関しては、「米国では病室内に針を処理する場所があるが、日本の病室はそうした設備を備えておらず、使用後の針を持ち帰るため、針刺し事故を起こすリスクを増やしているのでは」と話した。

 興味深いことに、針刺しによる受傷部位はどの国でも手指が最も多いが、日本では足が5.4%と米国の3倍以上になる。その理由としてJagger氏は、1.病室でIVを導入する際などに、日本では針先の始末を実施者(医師)が行わず、補助者(看護師)に針をそのまま手渡すため「足の上に落として針が刺さる」という事故が起こる、2.日本では医療従事者がサンダルを履くケースが多い−−との2点を挙げ、「針先の始末は実施者が行うことで感染機会が減る。足元も、針が落ちても刺さらないような靴を履くべき」と提言した。

事故予防連邦法の施行が安全器材普及の追い風に

 針刺し事故予防を巡る新しい動きは、Jagger氏らの尽力で、米国で昨年7月に連邦法「針刺し予防・安全法」(Needlestick Safety and Prevention Act)が施行されたことだ。医療従事者の職業上の感染機会を最小にする、より安全な医療機器・器材の評価を雇用者に義務付けるもので、「この法律の施行後、安全器材の普及率が上昇した」(Jagger氏)という。

 特に同法の波及効果が大きかったのは、採血セットに占める安全器材の割合だ。2000年から2001年の1年間で、安全に配慮した採血セットのシェアは、病院では4割から6割、診療所では1割から4割になった。このデータは、針刺し事故予防を推進する上で、予防対策の立法化が大きな力を持つことを示している。Jagger氏らの取り組みは、コスト面に加え、安全確保に対する雇用者側の意識の希薄さからか、安全器材があまり普及していないわが国でも大いに参考になりそうだ。

 なお、針刺し事故で起こる感染症は、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)とエイズが代表的。ワクチンや事故後の抗ウイルス薬の予防的投与で、事故が起こった場合の感染率は大幅に下がった。しかし、事故と感染との因果関係を証明できずに補償が受けられないケースも少なくない。Jagger氏は最後に、こうした感染症にかかったが、補償が受けられずにいる看護師の事例を紹介し、「(安全器材の導入など)効果的な予防策を推進するのが今は最善の策」だと強調した。


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