2002.02.11

【日本胃癌学会速報】 欧米GLと遜色ない胃癌治療GL、患者の自己決定に基づく治療選択が基軸に−会長講演より

 昨年3月、癌関連の治療ガイドライン(GL)としては初めて、特定の治療方針や術式によらない総合的な治療GLが発表された。それが日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」で、今期会長を務める慶応大学看護医療学部長の吉野肇一氏は、同学会の胃癌治療ガイドライン検討委員会評価委員長として作成に携わった。2月9日の会長講演「胃癌治療ガイドラインに思う」では、吉野氏が同GLの成立の経緯や概要、評価について講演を行った。

 吉野氏は冒頭に、米国における診療GLの成立の経緯を紹介。米国では1980年代後半に、医療費増大が社会問題化し、行政主導で「標準的な治療」の指針作りが進行した。医療者側の訴訟対策や、保険会社の支払い基準としての採用が後押しとなり、「専門家による明確な行為基準」としてのGLが確立したという。

 しかし、こうしたGLには、患者個々の病態に応じた治療を選ぶ、医師の裁量権を妨げるという弊害がある。そこで、日本胃癌学会がGLを作成する際には、病期に応じた過不足の無い治療を提示しつつ、治療法の技術的問題には立ち入らないとの姿勢を維持。一方で、提示した治療法を、臨床試験などで効果が実証されている「日常診療」と、臨床試験として行うべき「研究段階の治療」とに分け、はっきりと明示した。

 具体的には、直径2cm以上の癌を対象とした内視鏡的粘膜切除術(EMR)や胃癌の腹腔鏡手術、リンパ節のD3郭清、補助化学療法などはすべて「研究段階の治療」であり、実施する際は臨床試験として行うべきとしている。同時に、日本胃癌学会の調査で約7割の医療機関が“日常診療”として行っている、早期癌(病期1A)の術後補助化学療法については、予後の改善効果がみられないことから不要である旨を明記。国が認める(保険適応がある)治療法であっても、科学的な根拠のないものについては、GLの定義する「日常診療」からは除外した。

 同GLのもう一つの特徴は、治療方針を決めるのは医師ではなく、患者が十分な情報を得た上で「自己決定」するものであることを打ち出している点だ。同学会は医師向けのGLに加え、昨年12月には患者向けの「胃がん治療ガイドラインの解説」(金原出版)を作成。患者にも学会が「標準的」と考える治療方針を病期別に明らかにした上で、GLを逸脱した治療法だけでなく、準拠した治療を選択する際も、患者に対して十分な説明を行い、同意を得ることを医師に求めている。

 さらに、医師自身に実施する意思のない新規治療法についても、吉野氏は「内容や適応可能性、実施している医療機関などを説明する義務がある」とする最高裁判決(平成10年(オ)第576号損害賠償請求事件)が昨年11月に出たことを紹介。聴衆に「説明義務」の範囲に対して認識を改めることを促した。

 その上で吉野氏は、米国やカナダで採用されているGLの評価基準(JAMA;281,1950,1999)を用いて「胃癌治療ガイドライン」を評価。25の評価項目のうち12項目(48%)をクリアしており、欧米のGLと比べても遜色ないことを示した。こうした点を鑑み、「症例が豊富なわが国から胃癌の治療GLを発信することが、日本に課せられた義務」と吉野氏は強調。英文化による国際的開示を進める一方、GLの位置付けや評価基準には欧米と異なる点もあるため、日本独自のGL作成指針や評価方法の検討が必要だとした。

 日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」は、オンライン書店bk1で医師用及び一般用が購入できるほか、日本胃癌学会のウェブサイトからも解説を入手できる。「新規治療法の説明義務」に関する昨年11月の最高裁判決については、最高裁判所ウェブサイトの「最近の最高裁判決」まで。

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