2001.10.09

【日本痴呆学会速報】 会長講演、紀伊半島のALSとPDCに関する自身の研究成果を解説

 三重大学神経内科教授の葛原茂樹氏は10月5日、第20回日本痴呆学会学術集会の会長講演で、紀伊半島多発地域の筋萎縮性側索硬化症(ALS)とパーキンソン痴呆複合(PDC)に関してこれまでの自らの研究成果を中心に語った。同氏は、長年にわたる調査と研究に基づき、「紀伊ALSとPDCは病理学的には同じ病気で、異なった表現型(フェノタイプ)なのだろう。新しいタイプのタウオパチー(タウ蛋白の異常集積を伴う疾患の総称)ではないか」との見解を示した。

 紀伊ALSの特徴はアルツハイマー神経原繊維変化(NFT)が相当数みられる点。紀伊PDCはパーキンソニズムと痴呆を主な症状で、中枢神経系に老人斑を伴わずNFTのみが多数出現するのが特徴。紀伊半島の一部の地域Aでは、1960年代は紀伊ALSの発生率が日本の平均値の100倍以上に達することが疫学調査で報告されていた。しかし、その後は紀伊ALS、PDCとも患者の発生が大幅に減少していた。

 ところが、1993年から1994年にかけて、三重大学附属病院の外来に同じ地域Aに住むALS患者3人が立て続けに訪れたため、同氏らがその患者の家がある近辺を調査したところ、さらに紀伊のALSやPDCの患者がいることがわかったという。1998年に地域Aで調査したところ、人口10万人当たりのALS、PDC、典型的なALSが加わったPDCの患者総数が1969年調査時より増えていたことが判明。

 限られた場所で紀伊ALSが高い割合で発生しているため、土壌や水に含まれる金属元素が原因ではないかとの指摘もあった。地域AにおいてALS多発地区と発生していない地区の成人を調べたが、血清中のカルシウム、リン、ビタミンD、アルミニウム、マグネシウムなどについては、両群に有意な相違がなかった。30年ほど経過していても同じ疾患が高率で依然発生している事実とあわせて考えると、葛原氏は、「環境や水などが紀伊ALSの原因とは言えないのではないか」と語った。

 一方、既知の危険因子・原因遺伝子である、アルツハイマー型痴呆のアポE4、一部の家族性ALS患者で異常がみられるスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD;フリーラジカルを処理する酵素)遺伝子、第17番染色体に連鎖する前頭側頭葉型痴呆(FTDP-17)のタウ遺伝子などについて、地域Aの両群で調べても特に違いはなかった。

 葛原氏は、「家系集積率が高いので、何らかの遺伝素因を考えざるを得ないのではないか」と語り、現在、遺伝子連鎖解析を行えるだけの遺伝子の集積を行っているという。

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