2001.10.08

【日本胸部外科学会速報】 自己大腿筋膜を用いる胸部外科手術、低コストで術後合併症を予防

 浜松医科大学第一外科助教授の鈴木一也氏らは、肺の切離面の補強や心膜・横隔膜の再建などに患者自身の大腿筋膜を用いる手術法を考案。67人の患者に臨床応用したところ、補強用に用いられる人工素材と同じように使え、感染などの合併症も生じなかったことを見出した。外科手術においては、感染症予防の観点から自己血輸血など患者由来の生体材料の使用が広がっているが、大腿筋膜も新たな自己由来材料として注目を集めそうだ。鈴木氏らはこの検討結果を、10月5日の一般口演で発表した。

 胸部外科手術では、肺や横隔膜、心膜などを切除した部分に、布状の素材でパッチを当てて補強する手技が行われる。こうした補強用の素材として、以前は牛の心膜がよく用いられていたが、狂牛病との絡みで使用できなくなった。そのため、ポリテトラフロロエチレン(PTFE、商品名:ゴアテックス)などの人工素材が用いられているが、1枚5〜10万円と高価な上、異物反応が起こることがあり、安価で生体適合性の高い補強剤が求められていた。

 鈴木氏らは、患者自身の大腿筋膜が、大きさや強度、生体適合性からみて補強剤に適している点に着目。動物実験でPTFEよりも早期から周辺組織と一体化し、癒合が早く、縫合部の張力も高いことを確認、臨床応用に踏み切った。これまで67人の患者に対し、肺実質や胸壁の補強、心膜や横隔膜の再建、人工血管の被膜に用いたが、感染などの合併症や、補強部からの空気漏れなどのトラブルは1例も発生していない。

 自己大腿筋膜を使用する場合、手術する側の大腿部を術前に剃毛しておき、胸部の手術が終わった後に大腿を切開して筋膜を剥離する。大腿筋膜は約10cm×20cmの大きさのものが取れ、剥離と縫合に要する時間は慣れれば5〜10分程度で済む。筋膜を剥離した側の足は「多少は弱るので激しいスポーツは難しいかもしれないが、日常生活には差し支えがない」と鈴木氏。メリット・デメリットをよく説明すれば「患者さんは皆さん、自分の大腿筋膜を使って欲しいと言います」(鈴木氏)という。

自己由来のフィブリン糊や培養線維芽細胞の臨床応用も

 鈴木氏らはこのほか、自己血から作製したフィブリン糊や培養線維芽細胞の臨床応用も開始している。自己フィブリン糊については、365人の患者に対して市販の献血由来フィブリン糊と同様に使用したが、合併症は1例も生じなかった。自己培養線維芽細胞は、患者の皮膚から採取した線維芽細胞を3週間培養し、自己フィブリン糊に混ぜて用いるが、難治性の気管支瘻など9人に使用したところ、うち4人で治癒がみられたという。

 ただし、いずれも血液からの分離や培養などの手間がかかるため、専用の設備を持たない医療機関での使用は難しい。鈴木氏は「将来的には、自己フィブリン糊や自己培養線維芽細胞の作製を受託するベンチャー企業を設立し、臨床ニーズに応えたい」と話している。

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