2001.10.05

【日本胸部外科学会速報】 ドール手術の遠隔成績をACE阻害薬が改善か、動物実験が示唆

 心筋梗塞後の虚血性心筋症に対する外科治療の切り札として、注目を集めているドール手術の遠隔成績を、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が改善する可能性があることが明らかになった。京都大学大学院心臓血管外科の野本卓也氏らが、ラットを用いた実験で示したもの。無作為化試験が難しい外科療法における、代替的なエビデンスの一つとなりそうだ。野本氏らはこの研究結果を、10月4日のポスターセッションで報告した。

 ドール手術は、心筋梗塞後に生じた左心室の瘤をきんちゃく状に縫い縮め、左心室の収縮能を回復する左室形成術。拡張型心筋症に対して行われるバチスタ手術と並び、左室機能回復に対する外科的な切り札と見なされている。しかし、これまでに発表された中長期的な成績の中には、いったん回復した左室機能が徐々に低下するとの報告もあり、長期的な予後に対する懸念が持たれていた。

 野本氏らは、ラットの左冠動脈を結紮して作製した左室瘤モデル動物を用い、ドール手術の遠隔成績を検討。手術単独では、中遠隔期に左室機能が悪化することを見出し、昨年の米国心臓協会(AHA)学術集会で報告した。今回は、このモデル系を用い、臨床試験で心筋梗塞後の左室リモデリング抑制効果が報告されているACE阻害薬に、術後の左室機能悪化を防ぐ効果があるかどうかを調べた。

 結紮4週間後に左室瘤を生じたラットを3群に分け、1.左室形成術、2.偽手術(sham)+ACE阻害薬(リシノプリル連日投与、1日量:体重1kgあたり10mg)、3.左室形成術とACE阻害薬の併用−−をそれぞれ適用して経時的な左室機能の変化などを評価した。

 その結果、手術単独群と手術・ACE阻害薬併用群では、術直後に左室機能が改善。しかし、その後は経時的に悪化し、手術単独群では4週後にACE阻害薬単独群と同程度まで戻ってしまった。一方、手術・ACE阻害薬併用群では、左室機能は多少悪化したものの手術単独群ほどではなかった。

 さらに、手術4週間後にカテーテルで左室拡張末期圧(LVEDP)を評価したところ、ACE阻害薬を投与した2群では手術単独群より有意に低かった。病理標本でも、手術とACE阻害薬の併用で左室の再拡大が抑制されており、ACE阻害薬で中遠隔期の手術成績が改善されることが示唆されたという。

 野本氏らはこの効果を、左室リモデリングに関与するレニン・アンジオテンシン系の抑制によるものとみている。ただし、ACE阻害薬には降圧効果もあり、壁にかかる張力を下げることで心負荷が減った結果とも解釈できる。野本氏らは今後、他の作用機序を持つ降圧薬を用い、左室の再拡大抑制効果などについてより詳細な検討を加える予定だ。


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