2001.10.05

【日本胸部外科学会速報】 「動脈グラフトは優れた内皮細胞移植手術である」−会長講演より

 10月4日に開催された会長講演では、今期会長を務める国立循環器センター総長の北村惣一郎氏が「私の努力目標」と題した講演を行った。北村氏は、1.冠動脈バイパス術(CABG)における内胸動脈グラフトの位置付け、2.川崎病の外科治療、3.心血管領域の組織・臓器移植、4.学会の社会貢献と世界への情報発信−−の4テーマについて現況と将来展望を述べ、心臓外科医として歩んできた35年間を総括した。

 わが国で1年間に行われる胸部外科手術はおよそ4万5000件。1990年代に入って実施数が飛躍的に伸びたが、その原動力となったのが、虚血性心疾患に対する外科治療だ。

 なかでもCABGは、1999年に約1万8000件が実施されており、虚血性心疾患への外科治療の大半を占める。バイパスに使われる血管は、以前は静脈が中心だったが、ここ数年で動脈の使用比率が増加。現在ではおよそ3割に動脈グラフト単独、6割には動脈グラフトと静脈グラフトが両方使用されており、合わせて9割の患者に動脈グラフトが用いられている。

 この動脈グラフトの臨床応用を牽引してきたのが、北村氏らの研究グループだ。北村氏らは、内胸動脈をCABGでルーチンに用いた経験を1986年に最初に報告。わが国そして世界に向けて、内胸動脈がCABGのグラフトとして優れていることを示し、積極的な普及を図ってきた。

 動脈グラフトの最大の利点は、静脈グラフトと比べて開存率が高いこと。静脈グラフトは、移植後数カ月〜数年で血栓塞栓や内膜肥厚を起こし、狭窄や閉塞を起こすことが少なくない。ところが、動脈グラフト、特に内胸動脈には、壁が薄くエラスチンに富み平滑筋細胞が少ないという特徴がある。そもそも動脈硬化性病変が非常に起こりにくい血管なのだ。

 北村氏らは、動脈グラフトと静脈グラフトとを比較する数々の臨床研究を実施。内胸動脈グラフトは、開存率が高いだけでなく、バイパス先の冠動脈における動脈硬化の進展抑制効果もあることを見出した。その主因は一酸化窒素(NO)であり、内皮細胞から壁内や内腔内に分泌されることで、動脈硬化の進展抑制や血管の拡張、血小板凝集の抑制など、様々な保護的作用を示すこともわかってきた。

 こうした点を鑑み、北村氏は「内胸動脈をグラフトとして用いるCABGは、開存率が高いだけではなく、動脈硬化、すなわち内皮細胞傷害が強く起こっている冠動脈に対する、優れた内皮細胞移植手術である」と強調。こうした代謝改善作用は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)やステント留置では得られないと指摘、内胸動脈は「すべてのCABGに用いられるべきグラフト」と述べた。

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