2001.09.17

【EASD学会速報】 糖尿病性潰瘍の治療に新型培養皮膚、従来法より好成績

 糖尿病性潰瘍を対象とした無作為化試験で、ヒアルロン酸を使った培養皮膚を使うと、従来法よりも治癒率が高くなることがわかった。糖尿病性潰瘍は一般に治癒が遅く、重症例では1年以上も治らないことがあるほど。コスト面での課題はあるものの、培養皮膚を用いる潰瘍治療法は、潰瘍に悩む糖尿病患者にとって朗報と言えそうだ。この研究結果は、イタリアOspedale di AbbiategrassoのC. Caravaggi氏、R. De Giglioa氏らが、9月11日の一般口演で報告した。

 足部の潰瘍は、糖尿病の主要な合併症の一つ。病変が深部にまで及んでいることが多く、治療には皮膚の再生が必要になる。この時に大きな役割を果たすのがヒアルロン酸だ。ヒアルロン酸には、組織の修復を促し、線維芽細胞の癒着を高める作用があることが知られている。

 De Giglioa氏らは、ヒアルロン酸を用いて作成した人工皮膚を、2種類用いる潰瘍治療法を確立。非癒着型パラフィンガーゼを用いる従来法を対照とした無作為化試験で、潰瘍の治癒率や治癒期間を比較した。対象患者は、1型または2型の糖尿病で、直径2cm2以上の足部潰瘍があり、経皮的酸素圧が30mmHg以上である18歳以上の79人。

 治療11週目で治癒率を比較すると、培養皮膚を用いた患者では65%で潰瘍が治癒していたのに対し、従来法で治療した患者では治癒率が42%に留まった。また、4週目の比較では培養皮膚群の治癒率が15%、従来法群の治癒率は0%であり、治療効果には早い段階から差がみられることもわかった。

 足背潰瘍と足底潰瘍で分けてみると、足背部潰瘍では培養皮膚で11週目に治癒していた人の割合は67%だが、従来法では31%と治癒率が低い。潰瘍面積の縮小率も11週目でそれぞれ75%、57%と差があった。しかし、足底部潰瘍は治癒率、潰瘍面積の縮小率とも両群で違いがなかった。De Giglioa氏はこの点について、「足背潰瘍の人が堅い中敷の治療靴を履いていたのに対し、足底部潰瘍の人は体重がかからないようにギプスをしていたため、それが結果に影響したのだろう」と推測する。

開発進む培養皮膚、真皮や表皮の国産化も

 De Giglioa氏らが臨床試験に用いたのは、イタリアFidia Advanced Biopolymers社製の「Hyalograft 3d」と「Laserskin」という2種類の人工皮膚だ。私達の皮膚は、表面を薄く覆う「表皮」と、その下に広がる「真皮」から構成されているが、「Hyalograft 3d」は真皮、「Laserskin」は表皮に似た機能を持っている。

 「Hyalograft 3d」は、シート状の培養皮膚で、ヒアルロン酸から誘導された生体高分子が立体構造を作っており、その中に生きた線維芽細胞が植え付けられている。この培養真皮で潰瘍を覆うと、ヒアルロン酸の作用で細胞間の癒着、増殖や細胞外基質の産生など皮膚の再生が行われる。

 一方の「Laserskin」は、ヒアルロン酸のエステルでできた透明なシートで、レーザーで細かく開けた穴が配列されている。この穴は増殖に伴う細胞の移動を邪魔しないため、「Hyalograft 3d」の上を「Laserskin」で覆うことで、移動してきたケラチン生成細胞同士が融合し、上皮化を促す仕組みだ。

 培養皮膚にはこのほか、英国Smith & Nephew社・米国Advanced Tissue Science社製の「Dermagraft」や、スイスNovartis社製の「Apligraft」などが市販されている。うち「Aplograft」は、表皮と真皮が2層構造になった培養皮膚で、真皮層を含むため潰瘍などの治療効果が高いとされる。ただし、糖尿病性潰瘍に対する治癒率は12週で56%と報告されており、数字的には今回の「Hyalograft 3d」と「Laserskin」との組み合わせの方が治療成績は良いようだ。

 再生医療の研究が積極的に行われている中、国内では、今年の夏から厚生労働省の研究班(主任研究者=黒柳能光氏・北里大教授)が、ヒアルロン酸を使った真皮培養皮膚の臨床研究を進めている。全国16の医療施設が参加しており、2年後には国産の培養真皮が完成する見込みだ。一方の培養表皮も、名古屋大学教授の上田実氏が口腔粘膜を用いた作製技術を確立。技術移管を受けたジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC、愛知県蒲郡市)が、2002年内の臨床導入を目指している。

 皮膚移植が必要となる疾患のうち、広範囲の熱傷では培養表皮、潰瘍では培養真皮の有用性が高いと考えられている。しかし、既に実用化されている海外製品は、高価な上、病原菌やウイルスなどに対するチェック体制に不安が指摘されている。黒柳氏や上田氏らによる、より安価で安全な国内製品の開発が期待される。(八倉巻尚子、医療ライター)

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. インフルエンザの早い流行で浮かぶ5つの懸念 リポート◎AH3先行、低年齢でAH1pdmも、外来での重症化… FBシェア数:188
  2. 味方ゼロ? 誰にも言えない病院経営の修羅場 裴 英洙の「今のままでいいんですか?」 FBシェア数:147
  3. インフルエンザ流行入り、A香港型が中心 寄稿◎2016/17シーズンのインフルエンザ診療の要点 FBシェア数:67
  4. 男性医師は何歳で結婚すべきか、ゆるく考えた 独身外科医のこじらせ恋愛論 FBシェア数:158
  5. 心不全による下肢浮腫に悩む87歳女性への対応 青島周一の「これで解決!ポリファーマシー」 FBシェア数:31
  6. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:660
  7. ピコ太郎はどこまで世界に通用しているのか? 安部正敏の「肌と皮膚の隅で」 FBシェア数:1
  8. 開業日未定でも開業スタッフ確保の秘術 原田文子の「レッツ ENJOY ライフ」 FBシェア数:93
  9. 梅毒の流行が止まらず、11カ月で4000人を突破 パンデミックに挑む:トピックス FBシェア数:381
  10. 「スマホ老眼」を放置すると近視になる! 記者の眼 FBシェア数:97