2001.07.17

低タールタバコは健康への悪影響が少ないの?

 タバコは健康によくない、と思いつつもタバコを止められない人は多い。そこで、次善の策としてタバコを低タール低ニコチンタバコにかえる。彼(彼女)らはその方が健康への悪影響が少ないと考えているからだ。

 オランダで1975年から1994年の間に肺癌の発症率とその組織型を年齢別に調べた研究がある(1)。それによると、特に1920生まれ以降の男性に肺腺癌が増加傾向にあるという。米国(2、3)やスイス(4)における類似の研究でも、最近肺腺癌が増加していると報告されている。いずれの研究者もその原因として1960年頃より広まりだした低タールタバコを挙げている。

 一般にタバコのタールが10分の1になれば身体への危険性は10分の1になると思われがちである。しかし、これにはいくつかのからくりがあるのだ。

 タバコの箱に表示されるタールの値は、人工喫煙装置を用いて測定されたものである。しかし、実際に人がタバコを吸う場合は、この機械と同じようにはいかない。その一つの理由として、タバコの止められない喫煙者、つまりニコチン依存者は、常に液中のニコチン濃度を一定に保つように喫煙行動を変化させていることがあげられる。

 彼(彼女)らは強いタバコから低タール低ニコチンタバコにかえると、吸入されるニコチン量が少ない分、喫煙間隔を短くしたり、煙を深く吸い込んだり、肺に長くとどめたりなどしてニコチンの吸入量が増すように喫煙行動を変化させるのだ(5、6)。

 しかも、タールが10分の1となっていても必ずしもその中の発がん物質も10分の1まで減っているとは限らない。ニコチン吸収量を一定にしようと喫煙行動を変化させた結果、かえって発がん物質の吸入量が増加してしまうなどということがありうるのだ。また、煙を深く吸い込むと、煙の粒子が肺の奥(腺癌の発生部位)まで沈着してしまう。このことは末梢の肺腺癌が増加している理由の一つとして挙げられてい。

 タバコ会社は低タール低ニコチンタバコの方が健康への害が少ないなどとは一言もいっていない。しかし、彼らはタールやニコチンが少ないということを強調することで、間接的に健康への害が少ないかのような印象を与えている。それにつられて、低タール低ニコチンタバコに切り替えた結果、かえって喫煙本数が増えるようであれば、まさにタバコ会社の思うつぼである。

 さらに問題なのは、低タール低ニコチンタバコ、軽いタバコという印象によりタバコに対する抵抗感が減ることだ。これは喫煙開始の低年齢化を助長する恐れもある。社会への影響も考慮すると、むしろ低タール低ニコチンタバコの方が問題が大きいかもしれない。

■参考文献■
1) Epidemiology 12:256,2001
2) J.Natl.Cancer Inst. 89:1580,1997
3) Cancer 80:382,1997
4) Cancer 79:906,1997
5) 日本醫事新報 No.3670:132,1994
6) 日本醫事新報 No.3790:99,1996

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