薬剤師道一直線

一、名を名乗る

 「うーむ、ちょこざいな小僧め。名を、名を名乗れ!」と言われ、正々堂々と名乗ったのは赤胴鈴之助。「問われて名乗るもおこがましいが……」と、たんかを切りつつ名乗るのは、ご存じ白浪五人男。では薬剤師も、たんかを切るとは言わないまでも、患者さんを前にして堂々と名を名乗っているだろうか。

 たかが自己紹介と侮ることなかれ。このとき、既に患者さんとの真剣勝負は始まっている。自分を見る目力(めぢから)の具合、声の届き具合から、患者さんのノルアドレナリンやセロトニンの分泌量を、薬剤師は数秒のうちに推測しなければならない。そもそも名乗らずに薬の説明を始めたり、「今日はどうされました?」といきなり質問を始めるのは言語道断。名を名乗って初めて薬剤師の仕事は「始め!」となるのである。

 ところで、「薬剤師」という名称だが、これは1889年、「薬品営業並薬品取扱規則(薬律)」によって初めて定められた。名付け親は、わが国最初の日本薬局方の編さんに携わった柴田承桂先生である。当時は「薬剤師」と「薬師」という二つの名称案があったが、新しい時代にふさわしい造語ということで薬剤師に落ち着いたという。

 その由緒ある名称を、自己紹介で使わぬ手はない。「薬剤師・山田一郎と申します。本日、お薬の説明をさせていただきます。よろしくお願いします」。何とすがすがしいことか。すべての始まりは自己紹介からである。 さて、このコラムを書いている筆者も自己紹介から始めなければ。「名乗るほどのもんじゃあございません」では木枯らし紋次郎だし、「初めまして、桜木健一です!」では、薬剤師道一直線でなく柔道一直線になってしまう(古っ!)。ここは無難に「薬剤師・結城真吾です。特技は足でピアノを弾くことです」と自己紹介しておこう(やっぱり柔道一直線になってしまった……)。

(結城 真吾)

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