肝がんとともに

肝がんの治療を受ける方へ

外科的治療について

  肝がんの治療では、手術による切除が代表的な治療法の一つです(「肝がんの進行度別の治療アルゴリズム」参照)。肝臓を切除する方法には、がんの進行状態および患者の肝機能に応じて、幾つかの方法があります。また、近年、さまざまな内科的治療が開発されてきましたが(「内科的治療について」参照)、内科的治療を行った後など、非常に肝臓の状態が悪い場合に考慮される治療法が、肝移植です。

肝切除
肝移植


■肝切除

 肝がんの手術では、がんを含む肝臓の一部を切り取ります。がんが1個または少数で、さほど進行しておらず、肝機能が良好な場合にまず考慮される治療法です。肝臓は、まず大きく「左葉」と「右葉」に分けられ、左葉はさらに「外側区域」と「内側区域」に、右葉は「前区域」と「後区域」に分けられます。この4つの区域が基本構造です。また、区域より小さな構造を「亜区域」と呼びます。日本肝癌研究会による「原発性肝癌取扱い規約」では、門脈に沿って8つの亜区域が定義されています(図1)。


 肝がんを切り取る方法は、肝がんの大きさ、個数、場所、性質、肝臓そのものの状態に加え、患者の年齢や体力なども考え合わせて、慎重に判断します。病変を含む肝臓を切り取った後、残された肝臓の機能に問題が生じないかどうか、身体にかかる負担の大きい手術に患者が耐えられるかどうか、見極める必要があるからです。

 肝がんが5cm以上と大きく、肝臓の状態がさほど悪くない場合には、再発の可能性も考慮して、左葉もしくは右葉を大きく切り取る「葉切除」が行われます。比較的出血量が少ないのが特徴です。よりがんが小さい場合には、区域ごとにがんを切り取る「区域切除」が行われます。

 一方、肝臓の機能が低下していて、肝臓を大きく切除することが難しい場合には、亜区域ごとに肝臓を切り取る「亜区域切除」や、がんのある部分のみをえぐり取る「部分切除」が行われます。肝臓を切り取ってしまうと、残された肝臓が十分に機能できないと判断されれば、手術は行えません。

 また近年、腹腔鏡下肝切除術が一部の施設で行われるようになってきました。腹腔鏡下手術とは、皮膚に数箇所小さな穴を開けて、そこから専用のカメラと手術器具を腹腔内に挿入して、通常の手術と同様の手術を行う方法です。お腹にできる傷が小さいために、身体の回復が早く、手術後の痛みも少ないとされています。左葉や右葉の肝辺縁にできた比較的小型の肝がんなどを対象に行われています。現在は、先端医療として行われているため、施行できる施設が限られています。

 術後合併症について

 わが国の肝がん手術は世界でもトップレベルにありますが、肝がんの手術後、術後出血、術後肺炎、肝機能不全などの合併症が起こる可能性があります。最も頻度が高いのは、術後出血です。肝臓はもともと血流が豊富な上に、肝障害がある場合には、正常の肝臓よりも血液を凝固する働きが落ちており、出血しやすくなっています。術後出血は手術後1日以内に起こることが多く、その場合には、再度、止血のために手術が必要となることもあります。

 肝臓は、横隔膜にある靱帯によって固定されています。肝がんの手術では靱帯を切り離すため、時に横隔膜が損傷し、肺炎や胸水、無気肺を来すことがあります。心肺機能の悪い患者ではまた、心不全状態から肺水腫となることもあります。いずれも、重篤な場合には命にかかわるため、注意が必要です。

 こうした合併症を防ぐには、手術後、術後出血がなければ、できるだけ早期から歩行などの運動を始めることが大切です。運動によって腸管の動きが早めに回復すれば、速やかに飲食が可能となります。体調がより早く回復することで、合併症と闘う体力が得られ、合併症の予防にもつながります。

 また、肝がんの手術から1週間ほど後に問題となる可能性があるのは、残りの肝臓が十分に機能しない肝機能不全です。肝障害が術前の予測以上に進展していた場合などに生じますが、原因が明らかではないことも多く、治療は困難です。

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■肝移植

 肝移植とは、肝臓全体を取り出して、ほかの人の肝臓を代わりに移植する方法です。肝臓は再生能力が強く、約30〜60%の肝臓を移植すると、数カ月で元の大きさ近くに再生するとされています。肝移植は、他の治療が行えない患者や、他の治療を行った後に肝がんが再発した患者を対象に行われます(「肝がんの進行度別の治療アルゴリズム」参照)。がんを取り除くことに加えて、肝炎ウイルスへの感染から続く慢性肝疾患という肝がんの背景そのものを治療できる点が、大きなメリットです。

 肝移植には、親族や配偶者から肝臓の一部を提供してもらう「生体肝移植」(図2)と、脳死状態の人から肝臓を移植する「脳死肝移植」があります。どちらも、設備の整った大学病院など、限られた施設で行われています。わが国では主に生体肝移植が行われており、2007年から肝がんも保険適用になっています。


 ただし、肝移植を受けるには、血管およびリンパ管にがんが広がっておらず、リンパ節や他臓器への転移もなく、がんが1個なら直径5cm以下、複数あれば全部で3個以下でそのうちの最大径が3cm以下――という条件を満たす必要があります。

 また、前の治療から3カ月以上経過し、かつ1カ月以内の画像検査で肝がんが上記の基準を満たしていることが求められます。これは、移植前にTACEやRFAを行って上記の基準内となった症例は、移植前に治療せずに基準内だった症例と比べても移植後の生存に差がないことが明らかにされためです。従来は基準がどの段階で満たしていたか、ということが明確ではありませんでしたが、この結果から移植前に治療を行っていても、3カ月以上経過していて1カ月以内の検査で基準を満たせば保険適用の対象となることが示されました。

 実際には、生体肝移植は、より進行した肝がんの患者に対しても行われているようです。日本肝癌研究会の「第18回全国原発性肝癌追跡調査報告」(2004-2005)によれば、基準を満たした肝移植の1年生存率が74.2%、それ以外のケースの1年生存率は73.3%でした。

 なお、先に述べた移植の基準は「ミラノ基準」と呼ばれていますが、このほかに国内外の施設(グループ)には独自の基準を設けている場合もあります。ただし、この基準はあくまでその施設(グループ)のみの基準であり、広く認められた基準ではありませんし、広く行われているものではありません。国際会議ではミラノ基準をさらに拡大してもよいかどうか現在検討が進められていますが、まだ統一した見解は示されていません。現時点では保険適用の範囲内で行うことが妥当であると考えられます。

 肝移植には、さまざまなマイナス面もあります。まず、健康面に問題のない臓器提供者に手術を行って肝臓の一部を摘出することです。臓器提供者を「ドナー」と呼びますが、ドナーの長期の合併症として、創部痛、腹部不快感などが問題となっています。また、肝臓の提供を受けた患者を「レピシエント」と呼びますが、レピシエントには多くの合併症が、術後早期・晩期に起こっています。肝機能低下のため黄疸が起こったり、手術の傷口に感染症が生じたり、血栓症、腸閉塞、胆管狭窄、腹膜炎など、さまざまな合併症が挙げられます。

 当然、レピシエントの身体にかかる負担は大きく、移植が行えるのは、手術に耐える体力がある人に限られます。また、肝移植を行う際には、患者自身の肝臓が、提供してもらった肝臓を“異物”とみなして攻撃しないように、免疫抑制剤が投与されます。免疫抑制が十分ではない場合には移植した肝臓を排除しようとする拒絶反応が起こり、治療に反応しないときは、再移植が必要となることもあります。

 また、免疫抑制剤の投与によって、本来持っている免疫機能が抑えられてしまうため、感染症にかかりやすくなります。手術によって元々体力が落ちているため、高熱が出るなどして命にかかわることもあります。移植後も、拒絶反応を抑えるために長期間免疫抑制剤を服用することによって、肝機能や腎機能に障害が生じる場合もあります。たとえ移植を行っても、残念ながら肝がんが再発してしまうこともあります。

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