肝がんとともに

化学療法について

現在進行中の分子標的薬の臨床試験について

 肝がんに対する分子標的薬については、現在も多くの臨床試験が進行中です。分子標的薬そのものはまだ新しい薬剤であるため、分子標的薬の効果をより十分に得るためにはどういった使い方をすればよいのか、またこれまでの治療体系の中でどう位置付けられるか、といったことを明らかにしていく必要があるからです。

 まず、現在の日常臨床で使用できるソラフェニブについて、従来から行われている肝細胞がん治療と組み合わせると、どういった効果が得られるのかを評価する臨床試験が行われています。特に日本では、海外と異なり、比較的早期に肝細胞がんを発見するため、治療の選択肢を考える上で、肝動脈化学塞栓療法(TACE)や肝動脈内注入療法などの位置づけが海外と異なるため、日本人を対象に日本の日常診療においてこれまでの治療とソラフェニブの組み合わせによる効果がどの程度得られるのか、という点も非常に注目されるところです。そのため、日本でも活発に研究が行われています。

 ここでは、主な試験として4つの試験の概要を紹介します。


■TACE(肝動脈化学塞栓療法との併用)
 ──TACTICS試験(日本)

 この試験は、進行性肝細胞がん患者さんで、肝機能分類はChild-Pugh Aであり、肝動脈化学塞栓療法(TACE)は受けたことがないかもしくは1回受けた(ただし6カ月以上前)ことがある患者さんを対象としています。また、腫瘍の大きさは10cm未満、腫瘍の個数は10個未満の患者さんです。なお、局所化学療法であるTACEとの併用効果を評価する試験であるため、血管浸潤がある患者さん、肝細胞がんが他臓器に転移している患者さんは対象外となっています。

 こうした患者さんを対象に、必要に応じてTACEを行う群とTACEとTACEの間にソラフェニブを投与する群の2群に分けて、TACEができなくなるまでの期間がどれくらい延長するかを評価します。

 この試験によって、肝細胞がんでよく行われている治療であるTACEとソラフェニブという新しい分子標的薬の併用療法の効果が評価できると期待されます。


■肝動脈内注入療法(肝動注)との併用 その1
 ──国立がん研究センターなど多施設共同臨床試験

 この試験は、外科的切除や局所壊死療法(経皮的局所療法ともいう。ラジオ波焼灼術[RFA]など)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を行うことができない進行性肝細胞がん患者さんを対象としています。

 外科的切除や局所壊死療法ができない場合、TACEがよく行われています。ただし、がんが進行していくと、TACEでは十分な効果が得られなくなるため、TACEができなくなります。

 そこで、TACEと同じようにカテーテルで肝細胞がんの部位に直接抗がん剤を投与する肝動脈内注入療法(肝動注療法)が行われることがあります。

 この試験では、化学療法を受けたことがない、進行肝細胞がん患者さんを対象に、ソラフェニブ投与群とソラフェニブ+シスプラチン肝動注併用群に分けて、どれくらい生存期間が延長するかを評価しています。


■肝動脈内注入療法(肝動注)との併用 その2
 ──SILIUS試験(日本)

 この試験も、外科的切除や局所壊死療法(RFAなど)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)を行うことができない進行性肝細胞がん患者さんを対象としています。

 肝動注療法に使う抗がん剤はいくつか種類がありますが、その1つがLow dose FPというもので、低用量のシスプラチン(白金系の抗がん剤)とフルオロウラシル(フッ化ピリミジン系抗がん剤)のことです。Low dose FPとソラフェニブを組み合わせ、日本人患者さんを対象に、ソラフェニブ単独投与群とソラフェニブ+Low dose FP併用群の2群に分けて、どれくらい生存期間が延長するかを評価する臨床試験です。


■術後補助化学療法
 ──STORM試験(日本を含む国際共同試験)

 術後補助療法としてのソラフェニブの効果を評価するSTORM試験(Sorafenib as Adjuvant Treatment in the Prevention of Recurrence of Hepatocellular Carcinoma)が、日本を含む国際共同試験として進められています。

 がん治療においては、外科的手術によってがんを切除した後でも、手術では取り切れないような目に見えない微細ながん細胞が残ることなどにより再発してしまう可能性があります。この目に見えない微細ながん細胞による再発のリスクを低下させるために、手術後に化学療法を追加して目に見えない微細ながん細胞を死滅させることを目的に行われるのが術後補助化学療法です。他のがんでも術後補助療法の有効性を検討するために多くの臨床試験が行われていますが、肝細胞がんでも開始されました。

 STORM試験は、外科的切除あるいはRFAなどによる局所療法によってがんを取り除いた患者さんを対象に、ソラフェニブを投与する群と偽薬を投与する群に分けて、再発までの期間が延長するかどうかを評価する試験です。

 このSTORM試験は、現在、試験への症例組込みは終了し、観察期間の段階とされています。

●新しい分子標的薬

 また、ソラフェニブを投与していたものの、効かなくなってしまった患者さんを対象に、新しい分子標的薬の開発が、世界中で精力的に進められています。例えば、tivantinib、orantinib、lenvatinib、エベロリムスなどといった開発中の分子標的薬です。また、分子標的薬ではありませんが、他の癌では使われている新しい抗がん剤S-1についても肝細胞がんに対する評価が進められています。こうした薬剤の開発がうまくいけば、進行肝細胞がんの治療の選択肢がかなり増えてくるのではないかと期待されています。

 2012年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)では、進行肝細胞がんに対し、c-MET阻害薬と呼ばれる新しい薬剤であるtivantinibのフェーズ2試験の結果が発表されました。c-METとは、肝細胞増殖因子(HGF)のシグナルを受け取る受容体で、肝細胞がんの増殖に関わるとされています。このtivantinibは、進行肝細胞がんに対するセカンドライン治療として、プラセボに対して有効であることが示されました。また、c-METが強く発現している症例のみを対象に解析した結果、有効性はさらに高いことが示され、今後の検討結果に注目されています。

 また、orantinibは、血小板由来増殖因子(PDGF)の受容体などを阻害する薬剤で、TACEと併用することで無増悪生存期間が延長する傾向が示されています。現在、フェーズ3試験が進められており、その結果が注目されています。

 Lenvatinibは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1-3、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1-4、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)β、RET、KITを標的にしたチロシンキナーゼ阻害剤です。Child-Pugh分類Aの進行肝細胞がん患者さん(ソラフェニブ投与を受けたことがある患者も含む)を対象とした臨床試験で有効性が期待できる結果が示されています。現在、フェーズ3試験が進められており、この薬剤についても結果が注目されています。

 一方、エベロリムスは、ソラフェニブを投与していて残念ながら進行してしまった肝細胞がん患者さんを対象に、エベロリムスもしくはプラセボを投与して、エベロリムスを投与した群の生存期間が延長するかどうかを評価する臨床試験が進められていました。しかし、2013年に、この臨床試験の結果が明らかになり、エベロリムスがプラセボに比べて生存期間を延長することが出来ず、開発が中止となっています。

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