肝がんとともに

化学療法について

局所化学療法

 一般的に、薬物治療と言うと、経口薬や静脈注射する薬剤を用いるものであり、血流にのって全身を巡り、原発巣だけでなく転移巣にも到達します。そのため、がん治療においてはこの全身化学療法が中心となっています。

 肝細胞がんにおいては、がんが肝臓にとどまっている(局所にとどまっている)場合、足の付け根などの血管から管を挿入し、肝臓にあるがんに直接薬剤を到達させる治療も行われます。これを局所化学療法と言います。

 肝細胞がんに対する局所化学療法として、肝動脈内注入(肝動注)化学療法(HAI:Hepatic Arterial Infusion)と肝動脈化学塞栓療法(TACE:Transcatheter Arterial Chemo-Embolization)があります。

 いずれもカテーテルという細い管を大腿部の付け根にある大腿動脈あるいは腕の動脈から挿入し、肝動脈までカテーテルを進めて留置し、直接薬剤を肝細胞がんに到達させることにより抗癌剤の効果を高めようという治療です。


■肝動注化学療法(HAI)
 肝動注化学療法には、(1)カテーテルという細い管を肝動脈に挿入して、血管造影をしながら、一回だけ抗がん剤を注入する方法と、(2)カテーテルを体内に留置して、継続的に抗がん剤を注入する方法があります。

 (2)の継続的に注入する方法では、大腿部の付け根の動脈からカテーテルを通し、肝動脈まで進めた後、もう片方の端を皮膚の下に埋め込んだ器具(リザーバー)に接続します(図参照)。その後、抗がん剤をリザーバーに注入すると、その抗がん剤はカテーテルを通して肝動脈に注入されます。

 これら2つの方法は、直接肝動脈に抗がん剤を注入することから、抗がん剤がほかの臓器などに流れていくことが少なく、多くの抗がん剤が肝がんに到達してがん細胞を殺し、効果を発揮するという特徴があります。経口薬や静脈注射をする場合と比べて、殺細胞的作用を有する抗がん剤の投与量が少なくてすむことから、副作用の頻度や程度が低いと言われています。しかし、施設間で手技や注入する薬剤(注入するレジメン)も異なることから、その有効性についての確立したエビデンスは今日に至るまで報告されていないのが現状であり、その構築が待たれます。また、薬物を局所に作用させることから、肝臓外に転移した腫瘍には効果は期待できません。

 

 使用される薬剤は、5-FUとアドリアマイシン、マイトマイシンC、エピルビシンとシスプラチン、あるいは5-FUとシスプラチンの併用、5-FUとインターフェロンαの併用などがあります。5-FUとシスプラチンの併用は「CDDP+5-FU(low dose FP)」、5-FUとインターフェロンαの併用は「IFN+5-FU」とも呼ばれています。ただし、これらの中には、肝がんに対して保険承認されていないもの、動注投与法が保険承認されておらず、研究という位置づけで行われているものがありますので、治療を受ける際には主治医に相談すると良いでしょう。

 2009年10月には、肝動脈注入化学療法に用いる新しい薬剤として、ミリプラチンが承認されました。ミリプラチンは、シスプラチンと同じ白金製剤で、DNAに作用してがん細胞を死滅させる抗がん剤です。


■肝動脈化学塞栓療法(TACE)
 肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemo- embolization: TACE)は、肝細胞がんに栄養や酸素を送っている動脈を薬剤によってふたをすることで、がんをいわゆる「兵糧攻め」にして壊死させる治療法です。「兵糧攻め」をしつつ、同時に抗がん剤を局所投与してがんに抗がん剤を長く留める方法となります。

 肝細胞がんはその大半が肝動脈から栄養を得ていますが、正常の肝細胞は、およそ8割が門脈から、2割が肝動脈から栄養を得ています。そのため、肝動脈を閉塞させても、正常の肝細胞は維持されるという仕組みになっています。

 以前は、肝動脈を閉塞させる物質のみを注入する肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)が多く行われていましたが、現在は、油性造影剤と抗がん剤を注入後、塞栓物質を注入する肝動脈化学塞栓療法が主体となっています(下図)。油性造影剤であるリピオドールは、過去の検討で、腫瘍内に蓄積することが示されたため、抗がん剤と混合して投与することになりました。

 具体的には、カテーテルという細い管を、局所麻酔後、大腿部のつけ根にある大腿動脈あるいは腕の動脈から挿入して、肝動脈までカテーテルを進め、油性造影剤であるリピオドールウルトラフルイドと抗がん剤の混合液を注入します。このとき血管造影で、目的の肝動脈にカテーテルが挿入されているかどうかを確認しながら行います。抗がん剤には、ドキソルビシン(アドリアマイシン)やエピルビシン、マイトマイシンC、シスプラチン、ミリプラチンなどが使われます。

 その後、塞栓物質として1mm角前後の細かいゼラチンスポンジを注入して動脈を閉塞します。油性造影剤や抗がん剤、塞栓物質の量は、腫瘍の大きさや部位によって決められます。

 肝動脈化学塞栓療法は、手術による切除ができない肝細胞がんで、がんの大きさ(腫瘍径)が3cm以上、あるいはがんの個数が4個以上であり、経皮的エタノール注入療法やラジオ波焼灼療法など経皮的局所治療が適応でないと判断された進行した肝細胞がんに対して行われます(「肝がんの進行度別の治療アルゴリズム」参照)。ただし、この治療法を実際に施行するかどうかは、正常な肝臓組織の割合や治療後に肝臓の機能がどの程度残るかなどを考慮して決定されます。

 このように肝動脈化学塞栓療法は、3cm以上の比較的大きながん、あるいはがんの個数が多い場合でも実施が可能です。しかし、根治は難しく、繰り返し施行する場合が少なくありません。繰り返す頻度は、腫瘍の大きさや範囲によって異なりますが、2〜4カ月ごとに実施する場合が多いと報告されています。肝動脈化学塞栓療法を行った後、血流が多い腫瘍が出現したり、腫瘍マーカーの上昇や腫瘍径が増大したりした場合は、再度肝動脈化学塞栓療法を行うと予後が改善する可能性が示されています。

 副作用としては、みぞおちの痛みや腹痛、吐き気、食欲不振、発熱などがありますが、通常、数日で治まります。また、一時的に血液検査で異常が出たり、肝機能も悪化したりしますが、一週間程度で元に戻ります。

 2014年2月には、このTACEに用いる新しい塞栓物質としてポリビニールアルコール高分子素材の微粒子が使用可能になりました。この新しい微粒子は、粒子径が100〜300μm、300〜500μm、500〜700μmの3種類が用意されており、標的となるがんの大きさや血管径に応じて最適なものを選択して塞栓を行うことが出来ると期待されています。

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