肝がんとともに

化学療法について

全身化学療法

 全身化学療法で使われる薬剤には、口から飲む経口抗がん剤と、静脈から注入する静脈内抗がん剤があります。全身化学療法の適応は、外科切除や肝移植、経皮的局所療法、局所化学療法が適応とならない場合です。

 これまで、シスプラチンやエトポシド、マイトマイシンC、フルオロウラシル(5-FU)やテガフール・ウラシル配合剤(UFT)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)やエピルビシンなどが使われてきましたが、全身化学療法の効果は低く、肝細胞がんの標準的治療薬と呼べるような成績を残すことが出来た薬剤はありませんでした。しかし、近年、新しい作用メカニズムを持つ分子標的薬が登場し、進行肝細胞がんの標準治療として世界的に位置づけられています。

 この分子標的薬は、ソラフェニブで、2009年5月にはわが国でも「切除不能な肝細胞癌」の適応で承認を取得しました。ソラフェニブは、がん細胞が増殖のために利用する因子やがん細胞に栄養を供給する血管を作る因子に作用して、がん細胞の増殖や栄養を供給する血管ができるのを防ぐと考えられています。

 全身化学療法の適応となる患者さんの中でも、特にPS(全身状態)が良好で肝機能も良好(肝機能分類がChild-Pugh A)の患者さんにはソラフェニブが推奨されることが、「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版」に示されています。

 海外において、全身療法の治療経験がない602人の進行性肝細胞がん患者を対象に、ソラフェニブを投与した患者群とソラフェニブを投与しなかった患者群の生存率を比較した試験が実施されました(この試験はSHARP試験と呼ばれています)。

 SHARP試験の結果、生存期間中央値は、ソラフェニブ群10.7カ月、プラセボ群7.9カ月と、ソラフェニブ投与によって生存期間を延長できることが示されました。プラセボ群は、偽薬群とも言われ、見た目は同じですが、医薬品の有効成分が含まれていないものです。つまり、進行性肝細胞がんに対してさまざまな治療を行いますが、そうした治療は同じように行いつつ、一方ではソラフェニブを投与し、もう一方ではソラフェニブを投与せずに、生存期間を比較検討した結果です。

 また、生存期間中央値とは、対象となった患者さん(SHARP試験の場合、ソラフェニブ群には299例が登録されました)のうち、半数の患者さんが亡くなるまでの期間です。この試験の結果を元に欧米では切除不能な肝細胞がんを適応症として承認されました。

 同様の有効性はアジア太平洋地域で 226人の進行性肝細胞がん患者を対象に行われた試験(AP試験と呼ばれています)においても確認されており、本剤の肝細胞癌に対する有効性の再現性の高さが確認されています。

 国内では、ソラフェニブは2008年に切除不能な腎細胞がんを適応症として承認されていましたが、2009年5月にはSHARP試験の結果と日本人での小規模な臨床試験の結果をもとに「切除不能な肝細胞癌」が適応症として追加承認されました。

●臨床試験の結果を正確に理解しよう

 なお、先ほど述べたように、SHARP試験の結果、生存期間中央値が、ソラフェニブ群は10.7カ月、プラセボ群は7.9カ月でした。そしてハザード比は0.69だったと発表されています。

 生存期間中央値がプラセボ群に対してソラフェニブ群が2.8カ月長いという結果から、「ソラフェニブを服用しても3カ月しか長生きできない」と言われる方もいます。これは正しいのですが、あくまでこの生存期間はSHARP試験の対象となった患者さんにおける中央値であることを知っておく必要があります。

 生存期間中央値とは、100人の患者さんを生存期間の順で並べた場合、ちょうど真ん中の患者さんの生存期間を指します。「平均」に近い意味と考えてもよいでしょう。

 ではもう1つの結果であるハザード比について考えてみます。

 ハザード比とは、ある治療を行った群である事柄が起こる割合を1としたときに、もう一方の治療を行った群である事柄が起こる割合を示すものです。SHARP試験の場合、評価した項目は生存期間ですので、ある事柄とは「死亡」となり、ハザード比とは、プラセボ群の死亡する確率を1としたときに、ソラフェニブ群の死亡する確率は幾つになるかを表すものになります。

 ハザードとは瞬間の死亡率と言い換えることもできます。そのため、ハザード比は2群間の死亡率の比ということができます。そのため、SHARP試験の結果、ハザード比が0.69だったということは、ソラフェニブを服用していると死亡する確率がその瞬間0.69倍になっていると考えることが出来ます。また、死亡リスクが31%低下する≒生存の可能性が44%向上すると置き換えることもできます。

●肝細胞がんは多様、ただしどんなサブグループでもソラフェニブは有効

 肝細胞がんと一言で言い表しますが、その病態は多岐にわたります。例えば、肝細胞がんの原因となる背景肝がHCVなのかHBVなのか、アルコール性なのか、または血管に浸潤してしまっているかどうか、全身状態が良好か不良か、などです。

 そこで、ソラフェニブを用いたSHARP試験をさらに解析し、病態の違いでソラフェニブの効果が異なるかどうか検討され、サブグループ別の結果が報告されました。

 先ほど述べたように、SHARP試験の結果、生存期間中央値が、ソラフェニブ群は10.7カ月、プラセボ群は7.9カ月でした。

 背景肝がHCVの場合、ソラフェニブ群の生存期間中央値は14.0カ月、プラセボ群は7.4カ月でした。HBVの場合、ソラフェニブ群の生存期間中央値は9.7カ月、プラセボ群は6.1カ月でした。つまり、背景肝がHCVであってもHBVであってもソラフェニブはプラセボに比べて生存期間を延長できたという結果です(図参照)。

 また、脈管浸潤や肝外転移の有無、全身状態(PSといいます)が良好か中等度か、肝機能の程度などで分けても、いずれにおいてもソラフェニブ群がプラセボ群に比べて良好という結果でした。

 肝細胞がんの治療においては、通常の殺細胞性抗がん剤を用いた化学療法とは異なり、効果を発揮していても、CTやMRIによる画像評価を行うと、画像上腫瘍が小さくなっていないことがあります。小さくなっていないものの、がんの塊の中身では腫瘍が壊死している場合などがあることが明らかになっています。そのため、CTやMRIによる画像評価で腫瘍が小さくなっていなくても、壊死した部分とまだ生き残っている部分がどれだけなのか評価することが重要とされています。

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