乳がん百科

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乳がん百科 powered by がんナビ 乳がん診療に関する全国調査 2011

乳がんの治療実態と調査の読み方、考え方

乳がんになる人は年間5万人どころではない?!

 国立がん研究センターがん対策情報センターの発表データによると、2005年の段階で新規の乳がん患者数は約5万人と見積もられていました。一方、本調査に対して、回答があった520の医療機関における、乳房切除術数と乳房温存術数を合計してみると、2009年1年間で約4万5600人、2010年1〜6月は同2万3400人という結果に。

「乳がんをよく診ている医療機関だからこそアンケートに回答してきた」という偏りがあると考えられるとはいえ、本調査の回答率(49%)から考えれば、乳がんになる人は年間5万人をはるかに超えると予想されます。

温存率は6割台で定着 切除→再建が微増

 術式別に見てみると、2009年1年間の手術総数のうち乳房温存率は63%。昨年調査した、2008年1年間の乳房温存率と同率でした。日本乳癌学会の調査結果を見ても、2006年の段階で温存率は6割程度に達していることから、温存率はこの5年間6割台で推移していると考えていいようです。

 本調査設計の監修者でもある京都大学医学部附属病院乳腺外科教授の戸井雅和氏は「米国を筆頭に世界的に温存率がやや下がりはじめ、再建率が増えています。日本は人工物再建が保険適用ではないため、再建率はなかなか伸びませんが、乳房温存率はかなり高いレベルになっています」と話します。

高い再建ゼロ率 保険適用外がハードルに

 実際、乳房切除術後の再建率を見ると、前回の調査で得られた2008年の8%に対し2009年は10%、2010年の上半期で12%とわずかながら上昇傾向にありますが、依然として1割程度にすぎません。乳房再建を行う形成外科医は常勤が 43%、非常勤が10%の施設にいますが、再建率を2008年と2009年で比べてみると、逆に再建率ゼロの施設が51%から58%に増えています。

 この現象について、再建の専門クリニックで年間約200例の再建を行うブレストサージャリークリニック(東京都港区)院長の岩平佳子氏はこう分析します。「患者さんが満足する再建を行うには、再建をある程度専門にしている医師が必要ですが、その数は多くありません。結果的に、再建を専門とするクリニックへ紹介することになるわけです」。

 また、乳がんの患者さん自体が増えているのに手術室や病室数、医療スタッフ数が追いつかず「とても再建まで手が回らない」という事情も。実際、今回の調査回答の補足説明として「再建を行うゆとりもスペースもない」という書き込みもありました。

 岩平さんはもう一つの問題点として「人工物再建が保険適用外のため、保険診療で乳がんの手術を行う施設の場合、“うちではできない”と判断することが多い」と指摘します。

術前薬物療法で 「小さくしてとる」が7割

 乳房温存か乳房切除か。その判断基準を複数回答で聞きました。約7割を占めたのは「の縮小を期待して術前薬物療法を行い縮小すれば温存する」と「腫瘤のサイズではなく、元の乳房と腫瘤の大きさのバランスで判断している」という回答。

 戸井氏は「術前薬物療法の浸透に伴い、腫瘤の変化に応じて術式が選択されるようになった」と分析します。「腫瘤径が○cmだからこうする」という一義的な選択ではなくなっているようです。

複数のガイドラインを 参考に薬物療法

 術前術後の薬物療法について、その方針決定(複数回答)に最も大きな影響力を持つのは、2年に1回スイスで開催されるザンクトガレン乳がん国際会議における合意事項で、94%でした。次いで日本乳癌学会の診療ガイドラインが81%、米NCCNのガイドラインが51%、再発リスクを予測するデータベース、アジュバント・オンラインが26%という結果に。医師らは常に、複数のガイドラインを参考に診療にあたっています。  ザンクトガレン乳がん国際会議の、2009年の合意事項については、それまでの推奨事項から変更・追加された項目に関連して三つの質問をしました。  まずはホルモン受容体陽性の判断基準。従来はエストロゲン受容体の発現が10%未満はホルモン療法の対象にならず、抗がん薬療法を行いました。2009年の合意事項として「エストロゲン受容体が1%でもあればホルモン療法を行いましょう」ということになりましたが、「1%でもあれば……」を選んだ医療機関は78%。昨年の同項目の選択率67%から11%上がりました。ただし「受容体陽性率を調べる検査の精度の問題もあって“10%で陽性”を選択する医療機関もある」と戸井さん。

 がんの“顔つき”を調べる増殖の評価は前回の48%から13%増え、61%が行っています。がんは、腫瘍の大きさやリンパ節転移の数だけではなく、その性格をきちんと把握して治療すべきという認識が浸透した結果といえるでしょう。  一方、なかなか広まっていないのが遺伝子解析です。抗がん薬を追加すべきかどうか悩ましいケース(エストロゲン受容体陽性で陰性の場合)に、「複数遺伝子の発現解析を行う」のは前回の9%からやや増えたものの12%という結果に。これについて多くの医療機関から「保険適用がなく高額(約40万円)なため、説明しても患者さんがやりたがらない」という声が聞かれました。

術後の副作用対策進む リンパ浮腫への対応は8割超で

 術後の副作用として直面する人の多いリンパ浮腫。ひと昔前までは、「むくむのは仕方がない」「命には別条ない」との説明があるだけで、日常生活の注意点や治療法について、十分な説明が受けられるケースのほうが少数派でした。

 そこで今回の調査では、リンパ浮腫への対応を聞いたところ、22%の医療機関に「リンパ浮腫外来」があり、「リンパ浮腫外来はないが、適切な指導を行っている」という回答66%と合わせると、88%が何らかのケアを行っていることが分かりました。

 これについて、リンパ浮腫の専門クリニック、広田内科クリニック(東京都世田谷区)院長の廣田彰男氏は「2008年4月から、がんの手術後のリンパ浮腫について、患者さんに指導を行うことが保険適用になったことが大きい」と分析します。

 ただしこんな問題も。「リンパ浮腫という病気の説明から、日常生活の注意点、セルフケアの方法、症状が悪化したときの対処方法まで、すべて説明するには、ゆうに1時間はかかります。しかし保険の点数は100点(1000円)。医師あるいは医師の指導を受けた看護師などが患者さんと1対1で行わねばならないので、すべての患者さんに十分な指導がなされているとは考えにくいのが実情」(廣田氏)のようです。

96%が外来化学療法を実施 看護体制にはばらつきも

 点滴で投与する抗がん薬や分子標的薬。「薬の種類や患者さんの状態によっては入院が必要ですが、外来での投与が可能な場合は、できるだけ外来で行います」と戸井氏。実際、回答医療機関のうち96%が「外来化学療法を行っている」と回答しました。

 外来化学療法を行う通院治療用のベッド数(リクライニングチェアを含む)は平均10床、外来化学療法専任の看護師数は平均2.8人という結果に。

 ベッド数と看護師数の両方に回答があった488件のうち、専任の看護師ゼロは6%でしたが、中にはベッド数は10床あるのにゼロという施設も。また、専任がいてもベッド数30床に専任1人という施設を筆頭に、専任1人あたり5床以上という施設が3割を占めます。点滴中に副作用が出ないかを見守ったり、帰宅後の注意点について説明するなど、外来化学療法の実施に欠かせない看護師の整備は、まだまだこれからだと言えそうです。

診断に欠かせない病理医 常勤は7割

 乳がんかどうかの確定診断や、がんがきちんと切りとれたかどうかを確認するのは病理医の仕事です。日本には約7900の一般病院がありますが、病理診断の専門家である日本病理学会の病理専門医は2000人余り。

「日本の病理医不足は深刻」と長年いわれ続けてきましたが、今回の調査では、常勤の病理医がいる施設は68%、非常勤の病理医がいるのは14%という結果に。

「常勤が約7割もの医療機関にいるというのは、意外に多い印象」と話すのは、乳腺の病理診断歴40年、坂元記念クリニック乳腺病理アカデミー(東京都新宿区)院長の坂元吾偉氏。

 とはいえ、病理専門医でも乳腺の病理診断がきちんとできるとは限らないうえに「多くが“一人病理医”でしょう。風邪で休んだらアウト。病理医は学会に行って勉強するのもままならないのが現状なのです」とも。

 また、手術中に行うセンチネルリンパ節生検や、手術で腫瘍がとりきれたかどうかを術中に調べる迅速診断は、常勤の病理医がいなくては難しいとのこと。常勤の病理医不在のまま手術を行わざるを得ない施設も少なくない、という問題点も浮き彫りとなりました。

乳がん診療の専門医 “そろいぶみ”は13%

 乳がん診療を行う専門医(常勤・非常勤を問わず)がいるかどうかも聞きました。外科治療の中心を担う乳腺専門医、がん薬物療法の専門家である専門医か暫定指導医、放射線治療専門医、病理専門医、がん患者さんの心の治療を行う精神腫瘍医、副作用の管理に当たる循環器専門医のすべてがいる医療機関は全体の13%でした。その多くが大学病院やがんセンターなどの大規模病院です。

 これらの専門家の中で「不在率」が一番高かったのは精神腫瘍医で、「いる」という回答は18%にすぎません。

徐々に増える専門看護師 相談窓口も8割が整備

 術後の副作用対策や外来化学療法、そして長きにわたる通院治療においては、専門の知識を持つ看護師が頼りになります。がん関連の認定・専門看護師には、がん看護専門看護師、乳がん看護認定看護師、がん化学療法看護認定看護師、緩和ケア認定看護師……など多様で、それぞれに専門領域があります。これらの資格を持つ看護師がいる医療機関は69%で、前回の調査(62%)よりも増加傾向に。なかでも、がん化学療法看護認定看護師(45%)、緩和ケア認定看護師(46%)が多いようです。

 また、生活のことや経済的なことなどを相談できる窓口(相談支援センター)があるのは8割。対応するスタッフ(複数回答)は看護師が最も多く(63%)、ソーシャルワーカー(56%)、医師(26%)、社会福祉士(14%)などと続きました。  患者さんやその家族が交流する場となる「がんサロン」があるのは41%で、がんサロンはないが地域のサロンを紹介する(11%)と合わせて半数超の施設で何らかの対応をしています。

 これらの分析をふまえ、本調査結果を、病院選びの参考にしてください。