医療従事者向けセミナー 〜知って身近に緩和ケア〜

徹底討論!「診断時からの緩和ケア」これからどうする

 がん対策基本法が施行されてから10年目を迎えた2016年、「診断時からの緩和ケア」という考え方が浸透しつつあり、さらに多くの医療従事者が緩和ケアの担い手となることを目指して本セミナーが企画、開催された。
 主催者である日本緩和医療学会理事長の細川豊史氏は開会に先立ち、緩和ケア普及の経緯を紹介。がんと診断された時からの緩和ケアの重要性と共に、緩和ケアが患者の精神面のサポートや抗がん剤の副作用管理などを含めた幅広い概念であることを改めて強調した。
 続いて挨拶に立った厚生労働省健康局がん・疾病対策課の霏郢蟷瓩蓮緩和ケアに関する国の取り組みについて概説。第2期がん対策推進基本計画の重点的に取り組むべき課題の1つとして、「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」が盛り込まれており、緩和ケア研修会の実施等を通じた人材育成が重要な課題であることを説明した。さらに、「がん対策加速化プラン」にも緩和ケアについて盛り込まれていることなどを概説した。
 本セミナーでは緩和ケアを推進している医療従事者、患者代表が一堂に会し、緩和ケアの現状と課題について熱心に討論を繰り広げた。

基調講演1 国が考える診断時からの緩和ケア

緩和ケアは医療の本質にほかならない

 我が国のがん対策は、がん研究会が1908年に設立され、実質的な治療・研究が始まった。1962年に国立がんセンターが設置されたが、本格的な国の取り組みは、1981年にがんが死因のトップになった後、対がん10カ年総合戦略という形で始まった(図1)。その中で、がん治療の格差が重要な課題として指摘され、2002年にがん患者団体協議会が設立される中で、患者さんの悩みや要望を受け、がん医療の均てん化を大きな目標として掲げてがん対策基本法が成立する。

 同法が施行された2007年に始まった第1期がん対策推進基本計画で重点課題の1つとされたのが、治療の初期段階からの緩和ケアの実施であった。しかし、緩和ケアが終末期のケアと誤解されることも多く、2012年の第2期基本計画では、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が全体目標として追加され、緩和ケアについては「診断の時から」開始すべきものと明示された。厚生労働省は、診断時からの緩和ケアの周知徹底を図る中で、苦痛への対応の明確化と診療方針の提示を行うこと、診断時から外来および病棟において系統的な苦痛のスクリーニングを実施すべきとして、苦痛の初期対応についての院内ルールの作成や、緩和ケアチームへの依頼方法の明確化などの必要性を指摘している。

図1 日本のがん対策の歩み
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 厚生労働省の緩和ケア推進検討会が2012年9月に公表した中間取りまとめでは、基本的緩和ケアと専門的緩和ケアについて示している(図2)。このうち、基本的緩和ケアとしては、患者の声を聴き共感する姿勢や信頼関係の構築のためのコミュニケーション技術などを挙げているが、これは、診断時からの緩和ケアに必要であるだけでなく、医療従事者の基本的な姿勢として認識すべきものと思われる。また、専門的緩和ケアでは、基本的緩和ケアに加え、多職種でチーム医療を行うための適切なリーダーシップや多職種の医療者に対する教育の実践などを指摘している。こうした能力も医療者として持つべき基本的なスキルではないか。緩和ケアは医学、医療そのものであり、医学教育の中でその重要性をしっかりと根付かせる必要がある。医療の本質を求めていく上でも、緩和ケアの精神は重要である。

図2 基本的緩和ケアと専門的緩和ケアについて
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基調講演2 国立がん研究センターにおける診断時からの緩和ケア

全国がん拠点病院のハブ施設として緩和ケアの支援にも取り組む

 国立がん研究センターは、国のがん対策・がん研究、そして国全体が抱えているがん関連の課題に取り組む上で中心的な役割を担っている。2015年4月からは国立研究開発法人となり、大学や民間企業が取り組み難い課題に積極的に取り組むこと、世界レベルの研究開発成果の最大化を図ることが目的として掲げられた。また、医療法上の臨床研究の中核病院(全国6施設)の1つとして、国のがん拠点病院(合計で約420施設)を取りまとめるハブ機能を担っている。

 具体的な全国組織として都道府県の診療拠点病院51施設が参加する都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がある。同協議会には作業部会が4つあり、このうち緩和ケア部会は2013年にスタートした。診断時からの緩和ケアの推進にあたって、緩和ケアに関わる医師に対する研修、緩和ケアチーム、専門的な緩和ケアの整備、緩和ケアに関わる医療従事者、看護師などの育成、在宅緩和ケア地域連携体制の構築、国民への普及・啓発に取り組んでいる。

図3 国立がん研究センター中央病院治療状況別の緩和ケアチーム介入状況(2014年)
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 国立がん研究センターにおける緩和ケアの独自の取り組みとして、医師を対象とした緩和ケア研修の受講率は中央病院が95.7%、東病院が70.8%で、新たに採用した医師には必ず受講させている。中央病院の緩和ケアチームは2014年度に799例に介入したが、依頼項目は精神症状が最も多かった。ケアはがん治療中に行うことが多く、診断時から実施できたのは8%に留まった。これは当院の性格上、がんと診断がついて来院することが多いためと考えられる(図3)。緩和ケアチームは相談支援センター内に外来を持ち、診断時期、初回治療前から関われる体制になっている。一方、東病院のサポーティブケアセンターは、看護師が中心となり、退院・転院していく患者さんを在宅までフォローし、地域に密着した相談支援、就労支援も行っている。

 今後とも、2年前に作った本センターのビジョンである「がんにならない、がんに負けない、がんと生きる社会をめざす」努力をしていきたい。

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基調講演3 がん患者さんから見た診断時からの緩和ケアへの期待

誰でもよいから早期に痛みを取ってほしい

 私が国のがん対策推進協議会で患者委員を務めていたときに、緩和ケアや標準治療の浸透が不十分であることを訴え、がん拠点病院169施設を対象とした全国的な調査が行われることになった。2015年6月に公表された中間報告では、高度催吐性リスク化学療法施行時の制吐剤の処方率は6割程度で、化学療法に伴う悪心・嘔吐の管理が十分でないことが示唆された。がん拠点病院を中心に1万4000人の患者を対象としたアンケート調査では、約半数から回答が寄せられ、苦痛が制御された状態であると感じている患者は57%であった。自分自身ががんにかかり、苦痛に苦しんでいると考えたら、この現状は不十分と言わざるを得ない。

 緩和ケアが十分に浸透しない理由として、主治医が緩和ケアを行うのはまだ早いと考えていたり、患者や家族も緩和ケアは終末期医療だと誤解し、受けるのを拒んでいることなどが挙げられる。緩和ケア専門医ですら、主治医に緩和ケアを強く勧めるのを躊躇している実態がある。海外の報告では、転移性非小細胞肺がん患者を対象とした検討から、早期から緩和ケアを行うことで生存期間が延長することが示されている(図4)。しかし、患者の立場からは、生存期間が延びるから緩和ケアは早期から行うべきだという議論は、生存期間が延長しないなら推奨されないという議論にも感じられる。生存期間への影響に関係なく、痛みは取るべきだと考えてほしい。

図4 早期からの緩和ケア介入が患者生存率に及ぼす影響
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 人生の最終段階、いわゆる終末期に、どのように対処してほしいのかは、終末期になってから考えるのではなく、早期から医療者と患者が話し合って決めておく必要がある。しかし日本では、痛みに耐えるのが美徳という考えが根強く、早期から痛みを軽減することに抵抗もある。

 緩和ケアに取り組む上で、患者の苦痛をどう分かち合うか、「心のケア」をどのように行うかが現場レベルの大きな課題だと思われる(図5)。主治医も1人で抱え込まないでほしい。忙しくて手が回らないならば、他の部門、他の職種の方と協力してほしい。主治医であれ、緩和ケア専門医であれ、誰でもよいので、早期に患者の痛みを取ってほしいと願っている。

図5 精神的苦痛に対するニーズに応じた支援の必要性
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ディスカッション 徹底討論 診断時からの緩和ケア これからどうする


  • 座長:日本緩和医療学会理事長 京都府立医科大学 疼痛・緩和医療学講座 教授 細川 豊史氏、日本緩和医療学会 委託事業委員会委員長 市立札幌病院精神医療センター副医長 上村 恵一氏

  • パネリスト:がん研究会有明病院名誉院長 門田 守人氏、国立がん研究センター理事長 堀田 知光氏、全国がん患者団体連合会理事長 天野 慎介氏、聖路加国際病院緩和ケア科部長 林 章敏氏、昭和大学院保健医療学部研究科教授/昭和大学病院がん看護専門看護師 梅田 恵氏、NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会理事長 松本 陽子氏

緩和ケアはいつ、誰が開始するのか

 ディスカッションは、「診断時からの緩和ケア」をどのように捉えているのかという上村氏の問いかけで始まった。緩和ケア専門医の林氏は、「末期がんと診断された時の精神的な苦痛は計り知れない。緩和ケアはすべての医療者が担うべきで、対応が難しい場合には緩和ケア専門医に相談してほしい」とコメントした。がん看護専門看護師の梅田氏は、「かつては、治療医からの相談のタイミングが遅い、もっと早くから関わることができたらと思うことが多かった。しかし、国の施策として診断時から緩和ケアが推進される中で、がん看護専門看護師が診断時から関われる機会が増し、がんと診断された時の患者の衝撃を受け止めることも緩和ケアだと実感している」と現状の変化について述べた。

 がん患者の立場から松本氏は、「医療現場にいるすべての方が緩和ケアに取り組んでくれるよう願っている。がん患者は最初に診てくれた医師への思いが強いので、その先生から『痛み、つらさは取りましょう』と言ってもらえたら、心の支えになる」と強く求めた。天野氏も、「がん診断時、患者は混乱しており、がんを治すことに意識が向きがち。痛みを我慢して主治医には言わない人が多い。患者から痛みを訴えるのは難しい」と課題を指摘した。梅田氏は「痛みや苦痛を訴えることが、治療を進める上で不利になるのではないかと感じている患者は多い。医療者が変わってきていることを患者に分かってもらうことが重要だ」と述べた。

 細川氏は、「医師が考えている以上に患者は医師に気を使っている。また、痛みを訴えることはがんの進行を認めることになると考えている患者もいる。医師の方から患者が痛みや苦痛を訴えやすい状況をつくることが重要だ」と述べ、天野氏も「主治医との関係を構築していく中で、主治医に症状をどこまで訴えてよいのか、患者は迷うことがある」とした。

 この課題について上村氏は「スクリーニングツールなどを用いて患者が痛みを感じていることが分かっても、緩和ケアチームへの紹介を希望しない患者もいる。医療者が患者に歩み寄る姿勢が重要だ」とし、門田氏は「周囲から理解されていないと感じる社会環境がもたらす痛みもある。それを解消するのも医療者の務めであり、コミュニケーションスキルも含めて医学教育の充実が求められる」と述べた。堀田氏は「まずは研修受講率を高めることが目標だが、医療の根底として緩和ケアを大切にすることが重要だ」とコメントした。

緩和ケア医が主治医の信頼を勝ち取る努力も必要

 フロアからは「外科手術、化学療法、緩和ケアとがん医療の機能が分化していく弊害はないのか」という指摘があり、細川氏は「現在の化学療法は複雑化しており、緩和ケアのレベルも高まっている。日本では主治医が最後まで担当するという考え方が根強いが、ある程度の役割分担は必要」との考えを述べた。

 現在のがん領域における専門看護師と認定看護師の人数でがん患者に対応できるのかという質問に梅田氏は、「適正に配置されれば、かなりのがん患者をカバーできるが、施設の事情で専従できないのが実情だ」と回答し、細川氏は「国が補助金を付けて看護師の専従を義務化してもらえれば解決し得るはず」と提言した。

 患者を緩和ケアチームに紹介するのを嫌がる主治医が今でも存在するという指摘に堀田氏は、「管理者が指導すべき問題だ。病院長に緩和ケア研修の受講を課しているのはそのためだ」、細川氏は「かつては緩和ケアチームのレベルは施設間で異なり、紹介しない理由の1つになっていたが、状況は変わりつつある。病院長に緩和ケア研修を受講してもらったら、認識ががらりと変わった経験がある」、また林氏は「緩和ケアチームの医師が各診療科に出向くなどして、相談しやすい関係になることも重要だ」とコメントした。一方、患者の立場から松本氏は、「患者は緩和ケアに理解のない医師が淘汰されるのを待つ時間はない。今も苦しんでいる患者はたくさんいる。地方では主治医が緩和ケアチームを受け入れないケースも見受けられる」と強調した。

 最後に細川氏からは「本セミナーを受講してほしい緩和ケアにあまり興味を持たないがん治療医・主治医の緩和ケアに関する認識を正確なものに変えていく必要がある」と述べ、上村氏は「緩和ケアに携わる医師として患者だけでなく主治医の信頼も勝ち取る意識が必要だ」と述べてセッションを締めくくった。

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