インタビュー

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現在、全世界で唯一、術中にリアルタイムで左房像を確認できる「心腔内エコーによる三次元左房像(High-Resolution SoundMap)」を駆使して心房細動に対するカテーテルアブレーションを行っている、康生会武田病院不整脈治療センター所長の全栄和氏に、心房細動治療におけるカテーテルアブレーションの現状についてお話をうかがいました。

不整脈治療に対するカテーテルアブレーションの有用性

武田病院の不整脈治療センター

年間に300例以上のカテーテルアブレーションを実施しており、そのうち70%以上が心房細動の患者さんです。武田病院は稼働しているベッド数が270床程度です。そして私どもが使えるカテーテル治療室は1部屋ですので、他の診療科とのかねあいも考えるとこの症例数が妥当かなと思っています。

上室性頻拍、心室性頻拍などに対する高周波カテーテルアブレーションの手技は私が米国留学から帰国し、土浦協同病院循環器センターに勤務していた頃(1991年~1993年)に師事していた家坂義人先生(現・同病院院長)と後輩の高橋淳先生(現・横須賀共済病院循環器センター長)と一緒に作り上げました。

一方、心房細動に対するカテーテルアブレーションの手技は1998年に高橋淳先生がフランス・ボルドー大学のHaissaguerre先生の下で研鑽を積んで日本に持ち込みました。この時点では私は土浦協同病院を離れておりましたので、この技術を習得しようと高橋先生の手技の見学に数回同病院に伺いました。当初は、心房細動に対するカテーテルアブレーション手技は私には困難なものではないかと思っていましたが、高橋先生の手技を見学していくうちに、私のこれまでの経験や技術を活かしていけば心房細動の様々な局面においても治療していくことが可能なのではないかなと考えました。また、高橋先生も背中を押してくれました。

カテーテルアブレーションの臨床的意義は高く、抗不整脈薬では予防が難しい頻拍発作に対して、低侵襲で根治が可能となることにあります。

心室頻拍・心室細動などの致死的不整脈に対しては植え込み式除細動器(ICD)が有効ですが、カテーテルアブレーションによってこれらの不整脈を根治できれば、このICDが必要のない状況、また作動の回数の減少をもたらすことができ、患者さんにとって大きなメリットになると考えています。

患者さんのQOLを高めるためには不整脈を根治するべきであるというのが私を導いた諸先輩の教えであり、私の治療の原点です。心房細動に対しても、根治できる時にカテーテルアブレーションを行い根治するというのが当センターの治療方針です。

不整脈治療センターの歩みについて

私は2000年11月に武田病院に赴任し、当初は一人部長で不整脈科をスタートしました。当時はアブレーション治療専用のカテーテル室はなく、各科共有の腹部血管造影室を使っていました。またICUをはじめとして院内の各病棟の心電図モニターをくまなく見て回り、カテーテルアブレーションの適応がある患者さんを探しては主治医を説得し、武田病院でのアブレーション症例を重ねて来ました。やがて臨床工学技士や看護師の協力も得られるようになり、2006年秋に不整脈治療センターになるとほぼ同時に、2方向から透視が可能な専用のカテーテル検査・治療室を作ってもらい、現在に至っています。2014年6月末までに3200例にカテーテルアブレーションを行うことが出来ました。

自分の目で現状を把握しながら地道に診療体制を構築してきたことが現在に至っているのだと思います。

また院外への活動も重要だと考え、教育としてこのカテーテル手技の先駆者・先達者によるライブデモンストレーションをこれまで10数回行いました。

不整脈診療に関する勉強会・講演会なども、毎年数回は開催しています。この勉強会が地域医師会との連携に大いに役に立ち、現在では地域医師会の先生からの心房細動アブレーション治療の紹介が年々増加してきています。

心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応

― 心房細動カテーテルアブレーションの適応についてお聞かせください。

日本循環器学会の合同研究班による「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」1)では心房細動カテーテルアブレーションの適応患者としてクラスI(評価法、治療が有用、有効であることについて証明されているか、あるいは見解が広く一致している)では「高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性の有症候性の発作性心房細動で、年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合」を挙げています。またクラスIIa(データ、見解から有用、有効である可能性が高い)では「薬物治療抵抗性の有症候性の発作性および持続性の心房細動」、「薬物治療が有効であるが心房細動アブレーション治療を希望する場合」とされています。ガイドラインは一般開業医の先生が患者さんを専門医に紹介する上での判断基準となります。

実際に当センターを受診する新規心房細動患者さんの約80%が開業医の先生からの紹介です。開業医の先生方は患者さんの年齢やQOLを考慮し、患者さんに「あなたには心房細動という不整脈があり、抗不整脈薬、抗凝固薬を生涯にわたり飲み続ける必要がある。一方、カテーテルアブレーションという有効な根治治療があり、根治できればその必要がなくなる可能性がある」と説明しており、患者さんの希望により紹介されてくることもありますが、最近では積極的に紹介されているようです。

またガイドラインでは「年間50例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合」と規定はしていますが、私たちは、この心房細動カテーテルアブレーションの治療効率をさらに上げていくためには、年間の単純な症例数だけでなく、一例一例の治療の質が重要であることも肝に命じて治療にあたるべきだと考え、若手医師に指導しています。

心房細動に対するカテーテルアブレーションの歩みと実際

― 心房細動に対するカテーテルアブレーションの歩みと実際の手技についてご紹介願います。

心臓外科において心房細動に対するMaze手術の有効性がある程度認められたことは、高周波カテーテルアブレーションによる心房細動の治療に望みがあるという展開を期待させました。

この心房細動カテーテルアブレーションの進歩に大きく貢献したのは、1998年のHaissaguerre先生らによる、「肺静脈(PV)内からの反復性心房性期外収縮が発作性心房細動のトリガーである」という報告でした。解剖学的にはPVと左房との接合部の周囲からPVにかけてPVの外側を心房筋が取り巻くように存在する部分(myocardial sleeve)が存在し、この部分が心房性期外収縮の発生に関与していることがわかり、PVをターゲットとするカテーテルアブレーションが始まったのです。初期にはPV内のfocal(巣状)アブレーションが行われましたが、現在は有効性と安全性の高い左房の線状アブレーションを中心としたPV隔離法(PV isolation)が主流となっています。

PV隔離法とは4本のPV(左上、左下、右上、右下の各PV)と左房の間の興奮伝導を電気的に隔離する方法です。

に当センターで行っている心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療戦略を示します。私たちはPV隔離法のなかでも、完全な同側PV拡大隔離法(Complete Extensive Encircling PV Isolation)と呼ばれる方法を取り入れています。これは左房の後壁を大きく囲むように焼灼ラインを形成し、PV隔離を行う方法です。

「イリゲーションアブレーションシステム」とは高周波エネルギーを使ったアブレーションシステムの改良版で、従来のシステムでは焼灼用のカテーテル先端電極付近に十分な血流があることが前提であり、これによる焼灼組織、カテーテル先端電極の冷却がないと、十分な組織変成を起こすだけのエネルギーが伝達できません。そこで血流の少ない部位でも十分な焼灼部位の形成が可能となるように開発されました。

このシステムはカテーテルの先端電極に非常に小さな穴が多数開いており、そこから生理食塩水を一定量還流させることでカテーテル先端電極を冷却し有効な高周波エネルギーの出力を可能とさせて、また血栓の形成、付着も防止することが出来ます。このシステムが現在、主流となっています。

「食道温モニタリングシステム」は心房細動アブレーションの重篤な合併症である食道穿孔を予防するために使うシステムです。これも本邦で未承認の2009年から個人輸入して使用しています。

「3次元マッピングシステム」はリアルタイムに心臓の立体構造を把握することが可能となり、アブレーションカテーテルの操作の精度が増すという大きなメリットが得られます。

この「3次元マッピングシステム」には「EnSite Velocity」と「CARTO 3」の2つのシステムがあります。「EnSite Velocity」は胸部を前後、左右、上下の対になる電極からそれぞれ微弱な電流を流しその中で心臓内の電極カテーテルが受け取る電位を測定しナビゲーションを行う機構を持っているものです。このシステムはOne Mapと呼ばれるカラーマッピング機能があり、これにより、左房内で多極の電極カテーテルを操作することで左房の解剖学的ジオメトリー(構造)と局所の電位的情報も同時に得ることが可能です。

「CARTO 3」は「CARTO」システムの最新のものです。このシステムは「3次元マッピングシステム」の先駆けとなったもので、電極カテーテル先端に磁場センサーが装着されていて、患者さんの背中に装着したリファレンス電極との位置関係を検査台の下にあるロケーションパッドを基盤として体内にあるカテーテルの位置をナビゲーションしていきます。「CARTO 3」ではさらに患者さんの背中と胸部に対応する電極を3枚ずつ貼付し、間に微弱な電流を流し、カテーテルの間の変化を測定してナビゲーションする機能も加えられました。この2つの方法でカテーテルナビゲーションをより正確なものにしようとしています。

さらにこのシステムでは磁場センサーを組み込んだ心腔内エコーカテーテル(SoundStar Catheter)を使うことで心臓内のエコー図から作成した心内膜の輪郭(contour)から3次元エコー図(SoundMap)の作成が可能となりました(図1)。

従来、心房細動アブレーションでは術前に作成した3次元CTの左房像をこれらのマッピングシステムに取り込み、統合してこの左房像の上でナビゲーションを行いながら焼灼を重ねて行くのが主流でした。

私たちは、このSoundMapに注目、工夫し、世界に先駆けて左房内にこの心腔内エコーカテーテルを挿入して左房内からエコーによるSoundMapを作成する方法を開発し、High-Resolution SoundMapと命名しました。このHigh-Resolution SoundMapには右房からだけでなく焼灼のターゲットである左房の情報も加わっているわけです(図2図3図4図5)。このHigh-Resolution SoundMapは3次元CTの左房像と比べても遜色のないものであり、これと統合する必要はなくなりました。さらに強調したいのは、このHigh-Resolution SoundMapはリアルタイムのものであり、術前に造影CT検査を行えない患者さん、術中に左房造影ができない患者さんにも、心房細動のアブレーション治療が可能となったことです。現在このHigh-Resolution SoundMapを使って心房細動アブレーションを行っているのは世界中で武田病院不整脈治療センターだけです。

これによりすべての心房細動のアブレーション治療を希望する患者さんが適応となったといえるでしょう。

また再発した患者さんや他の施設で心房細動アブレーションを受けた患者さんに対しては積極的に「Ensite Velocity」システムのVoltage Map機能を使ったアブレーションを行っています。PV隔離後の再伝導部位がこれにより同定することが可能となるためで、無用な焼灼、PV内の焼灼が不要になります。

「3次元マッピングシステム」を有効に使うことで私どものセンターでは心房細動アブレーションによる治療効率は格段にあがりました。発作性心房細動であれば1回の施術で90%以上、持続性で80%前後の根治が得られています。

カテーテルアブレーションの目的は頻脈性不整脈の根治によるQOLの向上ですので、術者は1例1例に魂を込めて、根治を目指してカテーテルアブレーションを行っています。

カテーテルアブレーションは症例を重ねることによって体得できる手技であり、この手先の感触や感覚はいわば名人芸、職人芸のような面もあります。

「3次元マッピングシステム」やHigh-Resolution SoundMapの普及によりこれらのノウハウをこれから会得しようとする術者にフィードバックすることができます。これにより心房細動アブレーションを行っていこうとする医師が増えていくことを期待してやみませんが、やはり然るべき施設で十分なトレーニングを受けることも必要と思います。私たちがライブデモンストレーションを行うのもそのようなトレーニングに貢献することができるのではないかと考えているからです。

心房細動カテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法

― 心房細動カテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法はどのように行っていますか

ワルファリンを服用しコントロールの良好な患者さんでも継続して服用していただいています。術中にはヘパリンを適宜使用し、ACT(活性化凝固時間)を30分ごとに測定してヘパリンで補充します。新規経口抗凝固薬(NOAC)は効果発現が早く半減期が短いのが特徴です。そのため、NOACを服用中の患者さんの場合はカテーテルアブレーション前日まで服用し、当日に休薬していただきます。治療後、圧迫止血が終了し安静が解除された時点で服用を再開していただきます。

カテーテルアブレーション後は患者さんの脳梗塞のリスクにもよりますが、少なくとも半年間は服用を継続していただき、再発がなければ抗凝固薬は中止します。

ただしカテーテルアブレーション後の無症候性の心房細動の再発には特に注意する必要があります。診察のたびに心電図検査をするのは当然ですが、患者さんに自分で脈拍をはかる検脈の習慣を身につけるように指導しています。そして脈が乱れたらすぐにかかりつけの医院へ行き、心電図検査を受けて確認してもらうようにも言っています。

このようにカテーテルアブレーション後も患者さんの状態を常にチェックし、心房細動の再発に注意を払うことで患者さんのQOLの向上に貢献したいと考えています。

文献

  1. 日本循環器学会. カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン
    http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_okumura_h.pdf