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2007.07.02 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

 幸いにも、まだがんを患ったことがない人にとって、PET/CTは“がん検診の最新機器”というイメージが強いかもしれない。しかしそれはPET/CTの有用性の、ほんの一端にすぎない。一般にはあまり知られることがないが、PET/CTはがんの病期診断や転移、再発などに重要な役割を果たす。ここではがん診療の各段階において、PET/CTが具体的にどのように活用されているかをまとめてみた。

1.全身のがんをスクリーニングする

 自覚症状がない人が、がんの早期発見を目的に受ける“がん検診”。PET/CTは最新鋭のがん検診機器として利用されている。PET/CTをがん検診に用いる最大の利点は、全身のがんをスクリーニングできる点だ。スクリーニングとは「ふるいにかける」という意味。通常、がん検診といえば、「肺がん検診」「大腸がん検診」など、部位別に行われることが多く、調べている部位以外のがんは当然見つけられない。これに対してPET/CT検査では一回の検査で、ほぼ全身を調べてがんを探し出す。

 PET検査は、「盛んに分裂するがん細胞はブドウ糖をたくさん消費する」という性質(代謝)に着目し、ブドウ糖に似たPET薬剤(FDG)が集まる部位を調べるものだ。しかし、人間の臓器の形や大きさは千差万別。FDGが集まっている(がんができていると思われる)個所を見つけても、それがどの臓器かを判別しにくい。そこで、組織や細胞の「形状」を写し出すCTの検査を続けて行い、両者の画像を組み合わせて、その臓器を特定できるようにする検査装置がPET/CTだ。

 なおPET/CTによるがん検診は、血液検査や尿検査、その他の画像診断などを盛り込んだ、総合検診として実施されることが多い。これはPET/CTだけでは見落としやすい胃がんや前立腺がんなどを他の検査で補うためである。検診は自費での検査が原則であり、費用は施設やPETと組み合わせる検査内容によっても異なるが、10数万〜20万円程度かかる。

2.がんの広がり、遠隔転移の有無を調べる

 がん検診で「がんの疑いがある」と判定されたり、気になる症状があって医療機関を受診したときに、必要に応じて受けるのが精密検査である。精密検査は大きく2段階に分けられる。まず最初に行われるのが、がんかどうかを確定診断するための検査で、この検査でがんと判断された場合、それがどの程度進行しているか、がんの病期を調べる精密検査が続く。後者の精密検査は、治療方針を決める上で欠かせない。

 この病期診断のための精密検査で、PET/CTは威力を発揮する。例えば大腸がんの場合、確定診断には内視鏡が用いられるが、内視鏡では大腸内に生じたがんの表面は見てとれても、そのがんが大腸内に留まっているのか、大腸の壁を越えて周囲の臓器にまで及んでいるかは分からない。またがん細胞が血液などを介して、肝臓や肺などの離れた臓器に転移している心配もある。そこで全身が一度に調べられるPET/CTが選択される。

 CTだけで転移の有無を確認する場合もあるが、がん細胞の中には“羊の皮をかぶった狼”もいて、CTによる「形状や大きさ」の情報だけでは、良性の腫瘍か悪性の腫瘍かが見分けづらいことがある。「代謝」を捉えるPETの情報が加われば、PETの画像にはFDGを多く取り込む悪性腫瘍だけが写るので、鑑別が容易になる。またCTにも写りづらい臓器があるため、転移の可能性が比較的高い進行がんの場合は、PET/CTが優先的に用いられることが多い。

 病期診断を目的とするPET/CT検査では、現在までのところ、肺がん、乳がん、大腸がん、頭頚部がん、脳腫瘍、膵がん、転移性肝がん、原発不明がん、食道がん、子宮がん、卵巣がん、悪性リンパ腫、悪性黒色腫の13種類のがんについて、保険の適用が認められている。

3.治療効果を判定する

 治療効果の見極めにも、PET/CTの有効性は高く評価されている。がんの治療は手術以外に、放射線や抗がん剤による治療もあるが、がんの種類や病期、あるいは個人によってその効果に差がある。そこで一定の治療を行ったら、それががんに効いたかどうかを確かめる必要がある。効果が現れていればその治療を続行するし、なければ他の治療法を検討する。

 治療効果を確認する方法としては、CTやMRI検査などで腫瘍の大きさを見るのが一般的だが、大きさが縮小するよりも先に、腫瘍のブドウ糖代謝が低下するので、PETであればより早い段階で治療効果を確かめられる。また治療法によってがん細胞を殺してしまうものと、がんの増殖を抑えるものがある。後者の場合は細胞が死なないので腫瘍の体積はあまり変わらないが、ブドウ糖の消費は減るので、細胞の代謝の状態が分かるPETでの治療効果判定が可能となる。ただし治療効果判定にPET/CTを用いる場合の健康保険の適用は、現在は認められていない。

4.治療後、転移、再発が起きていないかを調べる

 治療計画通りがん細胞を駆逐した後も、定期的に再発の有無を確認する検査が行われる。各種検査で見つけられなかったがん細胞が増殖することもあれば、新たながんが発生する可能性もあるからだ。検査の内容や頻度は、がんの種類や進行度によって異なるが、「全身を一度にチェックできるPET/CTは、術後の再発診断に最も役立つ」とするPET専門医は多い。がんの種類によって、再発が起こりやすい臓器を、ある程度予測することはできるが、思わぬ場所にがんが再発することもある。特に再発のリスクが高い進行がんなどでは、再発診断にPET/CT検査を行う意義は大きい。

保険については、再発が疑われた場合に、2で挙げた13種のがんについて適用が認められている。