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2007.07.02 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

CT、MRI、PETといった画像診断の急速な進歩と臨床現場への浸透によって、画像診断を専門に扱う放射線科の役割も大きくなってきた。放射線科の現場で長いキャリアを持ち、日本における放射線医療の権威でもある日本医科大学放射線科教授の汲田伸一郎氏に、放射線科の現状と、CT、MRI、PET検査それぞれの利点と欠点、その展望を聞いた。

ーCT、MRI、さらにPETといった画像診断が広く注目されています。救急医療や脳外科、心臓外科、がん治療における放射線科の役割が拡大し、治療のイニシアチブを取るようになっていますね。

汲 田 放射線画像診断の精度が向上したのはもちろん、検査時間も大幅に短縮されました。そのため脳、心臓疾患をはじめとする急性期疾患に対する緊急検査にも柔軟に対応できるようになったわけです。今後も、放射線科の医師は、各疾患の診断、治療方針決定あるいは治療効果判定に際して、大きな役割を果たしていくと考えられます。ちなみに、欧米では、放射線科専門医の地位は従来から非常に高く、ドクターズ・ドクター(医者の医者)と呼ばれるほどです。放射線科の医師のアドバイスを基本にして、診療方針が決まるという認識ですね。日本でも、画像診断の急速な進歩によって、こうした欧米並みの認識が浸透しつつあると言えるのかも知れません。

CTはX線、MRIは電磁波、
PETは体内からの放射線を画像化

ー患者や一般の人向けに、CT、MRI、PETそれぞれについて、画像診断の仕組みと、得意なこと、不得意なことを解説していただけますか。

汲 田 CTはComputed Tomography(コンピューター断層撮影)の略称で、レントゲン写真と同じように体を通過したX線を検出器で捉えて、組織のX線吸収率の違いを画像化します。普通のレントゲン写真と違うのは、検出器が体の周りを回転し、あらゆる方向から撮ったデータをコンピューターで計算するため、三次元的な吸収分布画像が得られることです。
 その利点としては、まず優れた空間分解能が挙げられます。最新鋭機では0.5mm程度の腫瘍も見分けることができます。また検査効率も高く、検査時間も短縮されています。最新の多列式CT装置(64列)ならば、心臓の筋肉に栄養を与える血管である冠動脈も、10秒足らずの息止めで撮影できます。逆に欠点としては、少なからず被曝を受けてしまうところです。腫瘍の性状把握や血管の詳細な描出のためには造影剤を使用しなくてはならないため、わずかながら、造影剤による副作用の可能性もあります。

 MRIはMagnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)の略称です。人間の体の水分や脂肪に多く含まれる水素原子核は、強い磁場の中に入ると一定の方向に揃う特徴があります。この状態で特定の周波数の電磁波を受けると「共鳴」という現象を起こし、電磁波の照射が終わると、今度は逆にエネルギーを電磁波として放出して元の状態に戻ります。この時に、人体の水素原子核から放出される電磁波を捉え、コンピューターで解析し、画像化したものがMRI画像です。

 MRIは、CTと違って検査被曝はありませんし、部位によっては、造影剤を使用しなくても血管像が得られます。ただ、CTより検査効率が低く、20〜30分以上の検査時間が必要です。さらに分解能はCTよりもやや劣り、CTが0.5mm程度の分解能を持つとすると、MRIでは0.8mm程度の腫瘍しか見分けられません。

 PETはPositron Emission Tomography(ポジトロン断層撮影)の略称で、酸素、水、糖分、アミノ酸などにポジトロン核種を組み込んだ化合物(PET薬剤)を人体に注射することによって、生理・生化学的な画像情報を得ます。ポジトロンとは正の電荷を持った電子のことで、通常の負の電荷を持つ電子とすぐに結合します。この時、2本の消滅放射線を正反対の方向に放出するため、これを収集装置で捉えて画像化したものがPET画像です。日本では、2002年4月に糖代謝を反映するPET薬剤である2-deoxy-18F-fluoro-D-glucose (FDG)が保険適用となりました。がんなどの悪性細胞は、正常細胞の3倍から8倍の糖代謝を行っているため、悪性腫瘍にはFDGが多く取り込まれ、その集積度によって、腫瘍の活性を推定することができます。

 PET検査による被曝は、年間の自然被曝とほぼ同等で、問題視されるものではありません。ただ欠点としては、CTやMRIに比べると、空間分解能がやや劣ることが挙げられます。機種によって異なりますが、およそ5mm程度の腫瘍しか見分けられません。

ーここ数年で、全国のPETセンターでは、PET/CTが標準装備されるようになってきました。PET/CTの利点について教えてください。

汲 田 PET/CTは、空間分解能がやや劣るというPETの欠点を補う装置だと考えられます。PETとCTとの融合画像が得られるため、形態・機能の両面から病変について詳細に検討を加えることができます。解剖学的に複雑な構造を持つ頭頚部領域の診断などには特に有効でしょう。

 PET/CTを有効に使いこなすためには、PET画像とCT画像の両者を的確に読影し、診断ができる放射線科医が必要です。ところが現状では、両者のスキルを持つ専門医は、まだまだ少ない。そこで当院では、放射線科に入局した研修医をCT、MRI、PETなどあらゆる分野で研修させています。また、すべての科の研修医を対象に、放射線医学セミナーを毎月実施しています。放射線科以外の臨床科の医師にとっても、放射線医学の基礎を若いうちにしっかり学んでおくことは、将来、必ず役に立つと考えるからです。