■コラム&インタビュー 一覧|治療法
2007.07.02 日経ビジネス特別版「がんの診断と治療」より
 

 歴史のある、閑静な住宅街に立地する東京都立駒込病院は、都内でも屈指のがん拠点病院として知られる。1975年に開設され、「がんと感染症」に重点を置く総合病院として、高いレベルの先進医療を広く都民に供給することを、第一の運営理念として掲げている。 呼吸器外科では、年間に100例近い原発性の肺がん手術を手がけているが、その3分の1以上の40件前後で、PET検査を活用している。PETが保険適用になる以前から、院外のPET施設に検査を依頼してきたが、現在は地の利もあって、同じ文京区内の日本医科大学健診医療センターに検査を依頼している。

「一番良くPETを使うのは、(左右の肺の間にある)縦隔リンパ節が腫れている時に、本当に転移なのかどうかを、確認するためですね。転移なら手術適応にはなりませんから、以後の治療計画が大きく変わることになります」 こう説明してくれるのは、呼吸器外科医長の堀尾裕俊氏である。

手術で根治するチャンスを捉える

 肺がんの病期は、一般的にIIb期までが手術適応になる。肺の入口部分である肺門のリンパ節に転移があってもIIb期だが、左右の肺の間にある縦隔リンパ節に転移がある場合はIIIa期に分類され、治療の第一選択として、化学療法か放射線療法を選ぶのが通例だ。

 最近、堀尾氏が扱った症例で、PET検査によって劇的に治療計画が変わったのはA氏のケースである(画像A)。院内のCT検査による画像(左側)では、縦隔リンパ節が大きく腫れていたため、転移が強く疑われた。そこでPET検査をしてみたところ、縦隔リンパ節には悪性度を示すFDGの集積が認められず、炎症を起こしてはいるが、がんの転移ではないと判断することができた。そのため手術に踏み切り、がん病巣を切除。手術中の検査で、縦隔リンパ節には、やはり転移がないことが確かめられた。

 肺は、胸を切開して内視鏡などを入れなければならないため、手術前の生検(組織の顕微鏡検査)には限界がある。A氏の場合も、PET検査がない時代ならば、手術適応にはならないと判断され、化学療法に切り替えられた可能性が高い。PET検査のおかげで、手術で根治するチャンスを捉えることができたのだ。

短時間で全身検査の強みを発揮

 年間に2〜3例と症例は少ないものの、手術後に転移・再発の有無を確認する場合にも、PET検査は有効だ。(画像B)は、腫瘍マーカーによって肺がんからの転移が疑われたB氏の画像である。
 「CTだけでは、どこに再発しているのかがまったく分からなかった。そこでPET検査をしてみると、腰の骨という意外な場所に転移していることが分かりました。その後、腰の骨に放射線治療を行い、腫瘍マーカーも下がりました」
 短時間で全身の画像検査ができるPETの強みが、発揮されたのである。
 肺がんは、PET検査と相性の良い臓器である。100%ではないものの、肺がんの約9割はPET検査で認識できると言われている。堀尾氏は今後も積極的にPET検査を活用する方針だが、「FDG以外のPET薬剤も工夫して、実用化して欲しい」というのが当面の希望だそうだ。