■市民講座|レポート
 
 2007年8月23日、ぱるるプラザ京都にて、市民講座「女性がんはPETで診る」をPETサマーセミナー2007 in 琵琶湖事務局(大会長:林田孝平・武田病院画像診断センター長)が開催しました。女性にとって、特に気になる乳がんや子宮がんと、がんの発見に有効性が高いとされるPET検査について、それぞれの専門医が分かりやすく解説する本講座には、200人を越える受講者が集まり、その関心の高さがうかがえました。
 以下に、開会のあいさつに立った京都大学名誉教授の鳥塚莞爾氏のお話と、講演の概要を紹介します。
 
開会のあいさつに代えて〜PET検査の基礎知識 鳥塚莞爾氏(京都大学名誉教授)
 がん細胞は大飯ぐらいで、エネルギー源となるブドウ糖を正常な細胞の3〜8倍も多く消費します。PET検査ではこの性質を利用し、ブドウ糖によく似た薬剤を身体に注射して、それが体内でどのように分布するかを調べます。がん細胞はこの薬を本物のブドウ糖と勘違いして、どんどん細胞内に取り込みますから、結果的にがんがあるところに薬が集まってくることになります。この薬は画像では光って見えるので、光っているところがあれば、そこにがんがあるのでは?と疑われるわけです。ただし脳や炎症個所のように、もともとブドウ糖が集まりやすい場所もあるので、PET検査では経験を積んだ専門医による診断が欠かせません。

 PET検査はがんの進行度や転移の有無の確認など、がんの診療に非常に有効です。また痛みもほとんどなく、全身を一度に検査できるので、がん検診にも用いられていますが、PET検査といえども万能ではありませんから、PET検診を望まれる方は、PETと他の検査を組み合わせた総合検診コースを受診されることをお勧めします。検診目的の場合は全額自己負担になりますが、がんの診療として行われるPET検査については、現在、13種類のがんについて保険が認められています。
 
PET検査を受けるために 林田孝平氏(武田病院画像診断センター・センター長)
 PET検査は標識をつけた薬剤が、体のどこに集まるかを追跡する検査です。渡り鳥の羽や足に印をつけて、その移動ルートを調べるのに似ていますが、PET検査では薬が集まった場所を、がんではないか?と疑います。

 PET検査で使われる薬は、ブドウ糖に似たFDG(フルオロデオキシグルコース)という物質に、F18(フッ素18)という放射性物質をくっつけたものです。この放射性物質は体内でガンマ線の発生を誘発するので、このガンマ線をPET装置で検出し画像にします。

 PET/CTはPET検査とCT検査が同時に行える装置です。PETの画像とCTの画像を重ね合わせることで、双方の強みが活かされ、がんの発見や病変の位置の特定に、より威力を発揮します(図1)。

 PET検査では「8ミリシーベルト」程度の放射線被曝がありますが、これは1年間に自然界から受ける放射線量の3倍ほど。妊娠中の女性がPET検査を受ける場合は、特に被曝を気にされますが、100ミリシーベルト以下なら赤ちゃんに悪影響はありません。また検査終了後「8時間」たったら、子どもさんとのスキンシップもOK。「8×3時間」後(24時間後)には、授乳を再開しても構いません。これは「PETのエイト(8)・ルール」としてお母さん方にぜひ覚えておいてほしいと思います。

 PET/CT検査は、がん検診に利用される場合と、がんの診療に利用される場合があります。私の勤務する武田病院画像診断センターでは、検診によって100人中1.5人の割合でがんを発見しています。もちろんPET/CTですべてのがんが見つかるわけではありませんが、約8割のがんは検出できると考えています。

 最近ではPET検診を行う施設が増え、どこで受けたらいいか迷ってしまうという声をよく耳にします。その際は「PET単体の装置ではなく、PET/CT装置が導入されているか」「検診だけでなく、保険が適用される症例を多く診ているか(多くの病気を診ているPET施設の方が信頼できる)」「異常が見つかった場合、精密検査、治療を行う医療機関との連携はどうか」などを参考にしてください。 (図1)「PET-CTのしくみ」
 
乳がんについて 仁尾義則氏(十条リハビリテーション病院乳腺科)
 従来、乳がんはPETでは分かりにくいとされてきましたが、PETとCTが一体化したPET/CTの普及に伴って、次第に重要な役割を果たすようになってきました。2006年度の米国臨床腫瘍学会教育プログラムにおいても、「PET/CTは乳がんの診療において、一回の検査ですべてを網羅しうる検査として、費用と時間の節約になる可能性がある」と述べられています。

 乳がんにはさまざまな治療法があります。がんの進行度や患者さんの希望を考慮しながら、最適な治療法やベストな組み合わせを十分に検討し、治療方針を決定していきます。

 手術では、以前なら多くの場合、乳房ごと切除していましたが、最近では医療技術の進歩によって、乳房を温存するケースが増えています。ただし乳房温存手術を行う際は、がんの取り残しがないよう、「がんは1つだけか」「がんの大きさはどの程度か」「がんはどこまで広がっているのか」の3点を、あらかじめ正確に診断しておくことが絶対条件となります。それらを確認する検査として、MRI検査や高解像度CT検査が行われますが、これらに加えて、PET/CT検査も有力な検査法になりつつあります。

 例えば症例1は、乳がん検診で乳房の1カ所に乳がんの疑いが認められた患者さんです。触診しても確かにしこりは1つしか確認できなかったのですが、PET/CT検査を行ったところ、同じ乳房の下側にもう1つがんが見つかり、手術で取り除く範囲が当初の予定から変更になりました。(図2)

 また乳がんは脇の下のリンパ節に転移しやすいので、手術前にリンパ節転移の有無や、転移している場合はどの程度まで広がっているかを、把握しておく必要があります。これについてもPET/CT検査でかなりの部分を予測することができます(図3)。

 ちなみに乳がんの転移では、転移する場所によって危険な場合と、それほどでもない場合があります。乳がんで最も多い転移は骨への転移ですが、骨転移はさほど慌てなくても大丈夫です。反対に肺や肝臓、脳、胸膜への転移は、しっかり治療する必要があります。

 PET/CTにも弱点はあります。現状では脳への転移をPET/CTで捉えるのは困難です。また骨転移には、骨が溶けて骨折しやすくなる「溶骨性転移」と、骨にカルシウムが沈着してかたくなる「造骨性転移」があります。PET/CTは「造骨性転移」が苦手です。その他、がんがまだ小さい初期の段階では、PET/CTでは見落とされる可能性もあります。

 がん診療の鉄則は「がんは1つだけと思うな」ということです。乳がん診療においても多発性の乳がんもあれば、同時に他のがんができていることもあります。また乳がんの経過中に別のがんができたり、乳がんのホルモン療法が原因で発生するがんもあります。

 このように思わぬことが起こるのが、がんという病気の特徴です。PET検査は弱点を持っていますが、なにより予想外のところにできたがんでも発見しやすいという点が、がん診療におけるPET/CT検査の最大の利点だと思います。
 
子宮・卵巣がんについて 藤井信吾氏(京都医療センター・院長)
 子宮がんは、膣に近い部分にできる子宮頚がんと、それよりもっと奥の子宮内膜に発生する子宮体がんに分けられます。発生頻度は子宮頚がんが発展途上国で高いのに対し、子宮体がんと卵巣がんは先進国で高い傾向があります。年代で見ると子宮頚がんは20歳代の若い女性に多く見つかっているのが特徴で、子宮体がん、卵巣がんは40〜50歳代以降で発症が増えます。

 子宮頚がんの主な原因は、性行為によるウイルス(ヒトパピローマ・ウイルス)感染です。がんの発生場所が子宮の入り口部分なので、膣から直接観察することができ、そのためがんの中では進行の過程が最もよく分かっています。

 検診については、少なくとも最初の膣性交から3年経った時点で行うこと、あるいは21歳までには最初の検診を受けることが望ましいとされています。また現在では、ヒトパピローマ・ウイルスに対するワクチンの開発も進んでおり、子宮頚がんの予防や治療に大きな期待が寄せられています。

 子宮体がんの発症には、ホルモンの異常が深く関わっているとされています。子宮体がんが発生する子宮内膜は、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)によって、増殖と剥離をくり返していますが、このホルモンバランスが崩れ、卵胞ホルモンの力が強まると、子宮内膜が増えつづけ、がんができやすくなると考えられています。

 子宮頚がんも体がんも、診断に際してはがんの疑いのある部分から組織を採取し、顕微鏡で調べる検査が行われます。がんが比較的進行している場合は、病巣の確認に超音波検査やMRI検査などの画像診断も行われます。

 卵巣がんは最も治療が難しいがんの1つです。排卵すると卵巣の表面に傷ができますが、この傷が修復される過程で表面の細胞が取り込まれ、卵巣がんのもとができると考えられています。ですから出産経験がないなど、排卵回数が多い人は、卵巣がんのリスクが高まります。これについては低用量のピルを飲むことで排卵回数を抑え、卵巣がんを予防するという方法もあります。

 症例1、2は子宮がん、卵巣がんの診療に、PET/CT検査が用いられた例です。症例1は子宮体がんと診断された患者さんですが、PET/CT検査を行った結果、病巣が子宮内膜に限られており、浸潤がなく、他の場所にも転移がないことが確認できたため、ご本人の希望もあって子宮を残す治療法が選択されました。(図4)

 症例2は卵巣がんの治療後に、再発診断を受けた患者さんです。CT検査では明らかな所見は認められなかったのですが、1カ月後にPET/CT検査を行ったところ、CTでは分かりづらかった部分に再発・転移が見つかりました。(図5)

 このように子宮がん、卵巣がんの診療においても、PET/CT検査が選択されることがしばしばあります。中でもこれらのがんは、がん細胞が散らばりやすく、さらに卵巣がんの場合はCTやMRI検査では見えにくいことが多いので、治療後の再発・転移診断におけるPET/CT検査は、極めて有用です。