■市民講座|レポート
 
 2009年2月14日、兵庫県立がんセンターが「患者にやさしい放射線治療」をテーマに、「第8回 がんフォーラム」を神戸市垂水区の「レバンテ垂水2番館」で開催した。がんや放射線治療に関心をもった一般市民が会場に集まり、同センターの放射線科の医師や兵庫県立粒子線医療センターの医師の話に聞き入っていた。プログラムの最後にあたる「総合討論」の時間には、会場の参加者から寄せられた質問に、講師陣が分かりやすく答えた。

h-gan-maeda.jpg PET画像診断フォーラムのドクターメンバーでもある、兵庫県立がんセンター参事の足立秀治氏の司会で、午後1時30分から「第8回 がんフォーラム 患者にやさしい放射線治療」が開会した。冒頭、同センター院長の前田盛氏が開会のあいさつとして、「がん医療における放射線治療の位置づけ」と題した講演を行った。この中で前田氏は、兵庫県や同センターのがん治療への取り組みを交えながら、欧米に比べてまだまだ治療数が少ない放射線治療の現状を紹介した。

h-gan-matsumoto.jpg 「画像診断の治療への応用-針と管でがんを治す」というテーマで講演したのは、同センター放射線科の医師・松本真一氏。放射線治療とは異なるが、放射線治療と同様に外科手術のように患者の体を切らない、カテーテル(管)治療や穿刺治療治療を解説した。肝がんでは血管内に入れたカテーテルをがんのそばまで押し込み、抗がん剤を注入した後、血管を塞ぐゼラチンスポンジで栓をして、がんに栄養を与えないようにする「動脈塞栓療法」が有効なケースがある。あるいは、腹壁から刺した針の先に高周波電流を流してがん細胞の温度をあげて凝固変成させる「ラジオ波熱凝固療法」という治療法もある。これは画像診断装置であるX線透視、CT、超音波など用いながら行う低侵襲の治療法である。

h-gan-tsujino.jpg 次いで「切らずに治す放射線治療」は同センター放射線科の医師・辻野佳世子氏が担当した。放射線の一種であるエネルギーの高いX線を患部に照射すると、盛んに分裂するがん細胞はDNAを傷つけられて修復できずに死に至る。同時にがんの周りにある正常細胞のうち、放射線に強い正常細胞はダメージを受けにくいのだが、放射線に弱い正常細胞は傷ついてしまう。だが、正常細胞のDNAの傷は数時間経つと修復される。そこで、放射線治療では正常細胞が修復する時間を待ちながら、少しずつ何度かに分けて放射線を照射する。放射線治療は、がんが進行した際の緩和目的の治療法という認識が広まっているが、がんの種類によっては手術を行わずに放射線だけで治す根治治療にも使える治療法である。

h-gan-soejima.jpg 緩和目的の放射線治療を紹介したのは、同センター放射線科の医師・副島俊典氏。テーマは「痛みによく効く放射線治療」だ。がんが進行し骨に転移したときの痛みの80%、脳に転移したときの症状の60〜80%が放射線治療で改善されるなど緩和医療での有効性を紹介した。緩和目的の放射線治療では、外部から皮膚を通して患部に放射線を当てる外部照射の他に、放射線を発する薬剤を患者の体内に注射する内部照射もある。カルシウムと性質が似たストロンチウムの放射性同位元素が含まれる薬剤を注射すると、骨に集まり、そこで放射線を出すので骨転移の痛みをとることができる。

h-gan-murakami.jpg 新しい放射線治療として注目される粒子線治療は、兵庫県立粒子線医療センターの医師・村上昌雄氏が「人にやさしい粒子線治療」と題して解説した。前述の放射線治療で利用する放射線は光子の一種であるX線。これに対して、陽子(水素の原子核)や重粒子(炭素の原子核)を照射するのが粒子線治療だ。X線は体の表面の皮膚から患部に届くまでエネルギーを放出し、患部の奥まで届いてしまう。一方、粒子線は狙った位置でエネルギーを放出しきって患部より奥まで届かないところが特徴だ。また、粒子線はがん細胞のDNAの損傷効果も高い。半面、粒子線治療施設の開設には多額の資金が必要となる。2年後の2011年には保険適用される見通しであるため患者の経済的負担は軽くなりそうだ。現在、各施設がそれぞれ様々ながん種に対して粒子線治療を行い治療効果実績を蓄積している。

h-gan-hashiguchi.jpg 最後のテーマは「放射線治療中の生活上の注意点と看護師の活用」で、同センター看護部の看護師・橋口周子氏が、副作用とうまく付き合う、心身のリラクゼーション、食事について、禁酒・禁煙について説明した。さらに、放射線治療における看護の役割や患者や家族に対して看護師ができるサポートを具体的に挙げて伝えた。

h-gan-nishimura.jpg その後、講師全員が登壇して総合討論の時間となった。話題は会場から募った質問で、それに答える形で進行した。取り上げられた質問は講師の話をより深く理解するために追加説明を求めるものが多かった。予定時間一杯まで参加者とのやり取りが続いた後、同センター副院長の西村隆一郎が、閉会のあいさつとして放射線治療に対する期待を述べてがんフォーラムを締めくくった。

 厚生労働省から「都道府県型」のがん拠点病院に指定された兵庫県立がんセンターは、がん患者やその家族、地域医療関係者を対象にした「がん相談支援室」を運営しているが、今回のがんフォーラムのような形でがんやがん治療に関する知識の普及啓蒙を行う活動にも積極的に取り組んでいる。